悪役大好き腐女子が、異世界に来ました。
黒縁
第1話 推しが死んだ
「嘘……だろぉ?」
仕事を終えた私は、いつものようにビールとおつまみをテーブルに並べ。宅飲みをしながら一人。予約録画をしていたアニメを食い入るように見ていた。
今日は今季で一番お気に入りだったアニメの最終回。
仕事中もずっとウキウキわくわくしながら、なんとか定時で帰宅し。速攻で待ち望んでいた録画済みアニメを視聴し始めて約十分後……。
ーー推しキャラが死んだ。
「あぁあぁあああ~~!!またか!!またなのかぁああ!!」
私は一体、何年こんな経験をしてきたことだろう。
今まで見てきた漫画やアニメで、私が好きになるキャラといったら基本悪役キャラ。そして悪役と言えば、これまたほとんどの確率で死ぬという悪循環!!
たまに主人公と手を取り合う悪役もいるけど。私が好きになった悪役は皆、最後は主人公を助けて死んだりとか、自分から消滅したりとかで、皆ハッピーエンドってのはない。
「あぁ無理。しんどい。ピグシム漁って落ち着こう」
今季私がハマっていたアニメは『転生したらチート勇者だった件について』という異世界もので、オタクだった主人公
そしてそのチート勇者で私が好きになったキャラは、主人公の最後の敵。魔王リドルフだった。
まぁ十二話までほとんどと言っていいほど主人公と魔王の絡みは少なかったけど。この作品を見た瞬間。私の中で今回のカプは主人公×魔王しかないと確信した。
天然タラシの正義感溢れる主人公カズキと、誰もが恐れる凶悪面でプライドの塊魔王リドルフ。これこそ最高の推しカプ!!
もはや私の妄想の中では、二人を例の〇〇しないと出られない部屋にも閉じ込めたし。オメガバースの世界で番にもさせた。
それなのに公式では……。
魔王リドルフは主人公カズキの手で……殺されてしまった。
「ううぅ……死ネタは地雷です……」
別にバットエンドが嫌いというわけじゃないのだが……やはり推しが死ぬと普通に悲しい。喪失感が半端無い。
そんな時こそ、私は二次創作を漁る。
「うはっこの人絵うまっ!すこ!……ん?なんやと。カズリド漫画新作描いてくださってるーー!!マジ感謝。有難うございます……」
私の唯一の救い。ピグシムで神絵師様方が描いてくださるカズリド漫画。
マイナーカプだと思っていたけど、意外と描いてくださっている人がいて、おかげで毎日心が満たされる。
自分でも何度か漫画を描いて投稿してたけど、やっぱり自分が描いたやつより神絵師が描いたやつの方が断然良い。妄想の輪が広がる。
「あ、でもやっぱり最終回で悲しんでる人いるなぁ……。死ネタ漫画も増えてるし。おっ、転生ネタがある。神かよ」
皆それぞれアニメが終わった寂しさと、リドルフが死んだ悲しさを埋めるように、色んなネタを使って漫画を描いてくださっている。
「まぁ……そりゃ悪役だもんね。主人公に負けるのは当然だよね。魔王倒すまでの話だろうし。しょうがないのは分かってるんだけどさぁ……。どうにかして生き返らせてくれないかなぁ……。いやまぁね、実際興奮はしましたよ?あんなにプライド高いリドルフが、カズキに剣で切られて血を流しながら絶望していく顔とか、痛みに苦しむ顔とか、とにかくボロボロになったリドルフの姿に滅茶苦茶興奮しましたよ!!でも死んだらもうカズキとの絡みないじゃん!?原作だと別の魔王が現れちゃうし。私の中のカズキはリドルフ以外に浮気なんてしないんだよーー!!リドルフ一筋なんだよぉ~~!!あぁあ~~誰かぁあ~~私にもっと萌えをくださーい!!…………はぁ」
現在独身生活二十五年。腐女子歴十年。最近独り言が増えてきたのが悩みである。
「はぁ~~…………もう寝よ」
今回は相当ショックだったのか。ピグシムやズイッターを見ても埋まらないこの空虚感をどうにかするため、私は堅苦しいスーツを脱ぎもせず。そのままベットの上に寝転がった。
「やべぇ……これ寝落ちするわ……」
仕事で疲れた身体は横になった途端一気に睡魔に襲われて、次第にゆっくりと瞼を下ろしていく。
「…………リド……ルフ」
ーーもしも。
ーーもしも私が異世界の主人公だったら。
味方も敵も、誰も殺さないのにな……。
な~んてね。
「ーーそんな貴女様に是非。この世界を救っていただきたい」
微睡の中で聞こえる、美しい声。
最近見たなんかのアニメでも、こんな感じの透き通るような声を出してる声優さんがいた気がする。
「んん……あれ?私……テレビつけっぱなしで寝てたっけ?」
まだ眠たい目を無理矢理開けて、テレビが置いてある方へ顔を向けると、突然眩しい光が射し込んできて思わず目を細めた。
全く寝た気はしないけど、朝日が射し込むってことは、いつのまにか朝が来てしまっていたらしい。
「あれ?でもテレビの方に窓なんてあったけ…………って…………え?」
開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだろう。
自分の部屋で寝ていたはずの私は、いつのまにか知らない場所で朝を迎えてしまった。
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