Here is a c-love-r

またたび

ビーティフル・デイズ・アンド・ユー

 四葉のクローバーを偶然見つけた。

 僕は視力が良く、ちょっと遠くではあるが、すぐ辿り着ける距離にひとつだけ。四葉のクローバーを見つけた。


 しかし、取りに行こうにも行けない事情がある。僕は今アイスクリーム屋の行列に並んでいるのだ。ここはかなりの人気店で、せっかく二十分くらいは並んでいるのを無駄にしたくない。とはいえ、四葉のクローバーが気になるのは確か。


「あなた、バカでしょ」

「別に良いじゃないか」


 ということで彼女を電話で呼んだ。


「大人になってまで四葉のクローバーを取ろうとする人なんてあなたくらいだし、買い終わった後で大丈夫でしょ」

「いやいや。子供が狙うかもしれないし、大人だって四葉のクローバーは欲しいかもしれない。もしアイスクリームを買うまでに取られてたら結構ショック受けるから。頼むよ」

「なに? 取ってこいってこと?」

「いや。僕が買うまで四葉のクローバーの近くで監視しといてくれ」

「はぁ?」

「お願いします!!」

「……仕方ないなぁ」


 今日は晴天、かなり暑くてアイスクリームはぴったりだ。それでいて四葉のクローバーを見つけるなんて、ラッキーだなと思う。


「では二つで五百円となります」


 財布を取り出しながらふと君の方を見る。ちゃんと四葉のクローバーをずっと睨みつけてるようで、安心だ。


「やあ、お疲れ様」

「お疲れ様じゃないよ! 私ほんとなにしてるのかな、ってつい自問自答しかけたんだからね!?」

「ごめん、ごめん。でもほらアイス」

「えっ」

「君の分も買ってきたんだ」

「こんなんで機嫌が良くなるとでも?」

「じゃあ要らない?」

「要る!!」


 四葉のクローバーの近く、監視できる位置にあったベンチに一旦座り、アイスクリームを食べ終わった後に四葉のクローバーを回収することにした。


「暑いね」

「そんな中、私を外に呼んだのは誰?」

「ごめんって」


 するとその四葉のクローバーに、勢いよく近づいてくる少年がいるではないか。


「えっ」

「あっ」


 四葉のクローバーは彼に取られてしまった。しかし、それを責めようがない。やりきれない思いだけが残る。


「四葉のクローバー、なくなっちゃったね」

「……まあ仕方ないかな」


 アイスクリームを食べ終わり、二人で家に帰ることにする。夕日が川を赤く照らし、子供たちの笑い声が響く。今日も平和なんだなぁと平和主義者は思った。


「残念だね、四葉のクローバー」


 彼女が僕にそう言う。

 最初は小馬鹿にしてたくせに、いざ僕が少しでも落ち込むと、こうして心配してくれる。やっぱり優しくて素敵な人だ。

 好きで良かった。


「そうでもないみたいだよ」

「えっ?」

「ほら四葉のクローバー」


 帰路の草むらに偶然ひとつの四葉のクローバー。彼女に自慢げに見せる。


「幸せは案外近くにあるってことかな」

「もう、すぐ調子に乗って」


 四葉のクローバーを太陽と重ねる。

 とても綺麗な形をしていた。


「そういえば君の誕生日、来週だっけ?」

「えっそうだけど」

「ふーん、そっか」

「ちょっとそれだけ!?」


 僕はぼそっと呟いた。


「今日はありがとう」


 そしたら君も小さく。


「どういたしまして」


 僕はその案外近くにあった幸せの象徴を、押し花にして栞を作り、僕の案外近くにいた幸せに贈った。

 彼女が嬉しそうに笑ったのは言うまでもないだろう。

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