第5話 午前三時の小さな逃走

 現実逃避してどこか遠い世界で冒険したい。俺はそんなことばかり考えている。仕事の合間や眠りにつくまでの間、俺の頭は異世界に飛ぶ。頭の中の世界をどうにかこの世界にも作り出したい。仕事が忙しくなり、そのたび冒険を減らしていく。だんだん当たり前になっていく。俺は今日も現実から逃げ出せない。



 大きな大陸が分断された世界、その割れ目の小島に少数民族が住んでいた。彼らはどちらの誘いも断った、攻撃され島を捨てた。そうして逃げた空は異世界へとつながっていた。



 俺は会社から帰ってきた。自分の机でパソコンを開く。出窓の外では今日もカラスが喧嘩している。なんの話をしてるのやら。明日は休みだ、好きなだけ好きなことしてやる。ふと気づくと辺りは真っ暗で少し肌寒い。眠ってしまったようだ。四角いライトをつけると夜中の三時。俺はコーヒーをつくってまた執筆を始めた。夜の空にはカラスはいない。星が綺麗だなあ。ガキの頃のようにテーブルに立って、出窓に飛び乗る。落ちたら怪我するくらいに高い。


 ここから空き地が見える。そうそうそんな感じに不時着してて…って俺は何度も目をこすった、何かある。俺はまたガキの頃のように玄関から飛び出した。



「ああ、なんだ」



 壊れた機械の墓場だった。だけど俺はもしかしたらどこかの世界から逃げてきた飛空艇の残骸だったりして、なんて妄想する。すっかり冷えたコーヒーの残りを飲み干して、俺は今日も冒険から逃げ出せない。

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