ケルピー――水棲馬の健康診断のこと

 友人の助力要請で、胡椒湾北部の水棲馬牧場の健康診断へ。

 今や水棲馬の活躍の場は、水馬車みずばしゃや船の曳航馬としてだけではない。近年の水競馬みずけいば隆盛により、ケルピー牧場はかなり増えている。

 ケルピーは前脚と尾びれで体重軽減の魔法を使うため、これらの診察が要だ。今年は危険なカイバツボカビ病の流行の兆しもなく、我々魔獣医も牧場主も一安心。


 ケルピーには食性や生息域の異なるいくつかの種類があり、王国では北海産のアハ・イシュケ種と南海産のヴァカワカ種を掛け合わせて作った、アリオーン種の飼育が主流である。

 だが水競馬用の競走馬には、野生種の血を入れると健康で速い馬が生まれるという話があり、魔獣狩人には野生馬捕獲の依頼が季節に増えるという。

 魔獣狩りたちはケルピーを波切なみきうまとも呼んでいる。以前、狩人の溜まり場で耳に挟んだ話によると、彼らは馬を毛色によって黒波切くろなみきり碧波切あおなみきりなどと呼び分けるということだ。

 噂では、野生馬は毛色で性格が違うのだという。黒は頑固で手に負えず、青斑あおまだらは臆病で神経質、緑がかったのは穏やかだが怠惰、白は悪魔じみて凶暴だとか。

 ちなみに今日、私が診察した昨シーズン王都杯の優勝馬も白波切とのあいのこだそうだが、彼女は銀白の斑紋柄はんもんがらで、惚れぼれする泳ぎながらも気性のいい名馬だった。


 いろいろと動物を飼う私も、さすがにケルピーは経験がない。好きなときに彼らの背に乗り、ともに水面を駆け巡れたらさぞかし楽しいだろう。

 そうポロリとこぼしたところ、ある牧場主がオフシーズン時の乗馬に誘ってくれた。定期検診こみとはいえ、嬉しい提案だ。

 すぐに魔獣医仲間と連絡をとり、水上ピクニックの予定を立てる。

 波を蹴立てて駆けるのはどんなに気分が良いだろう。夏が今から待ち遠しい。

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