フェルニゲシュ――風生む鳥の品種改良のこと

 なぜかやたらと同種の患畜が続く日がある。今日は鳥の日だった。

 朝からサムパティ、ケツァル、シムルグ等が来院。午後は王都近郊では珍しいフェルニゲシュ牧場の往診だ。


 この鳥は飛べない大きな黒い鳥で、羽根に魔法を持つ。乾燥地帯に生息し、敵に追われると翼を振り立てて追い風を起こし、文字通り風のように遁走する。

 魔法は羽根の内部構造にあるらしく、これで作った扇で仰ぐと気持ちのいい涼風が出るのだ。すでに国内外で高級品として有名だが、牧場主には悩みがあるらしい。

 

 家畜の健康状態は申し分なし。問題は翼の色だという。

 以前から鮮やかな扇が欲しいと顧客に頼まれているものの、染色すると魔法が不活化してしまう。それで今、魔獣狩人に捕獲させた色々な種の走鳥と掛け合わせているのだが、結果が出ないとか。何か妙案はないかというわけだ。


 これは魔獣医より学院への相談案件だろう。とはいえ私にも助言は一つある。

 血筋の劣化を招く近親交配は繰り返さぬほうがいい。病弱になり、魔法効果も弱まるか、逆に強化されて危険個体と化した過去の例があるからだ。


 だがそのあたりは牧場主も先刻承知だったようだ。彼は白子アルビノの系統もひとつ飼っているので、私などはそれで充分ではと思ってしまう……と、そこで閃いた。

 白羽根間に、幻光の魔法を持つ別の魔鳥の羽根を混ぜてみたら? うまくすれば仰ぐたび美しい彩色に変化する扇になるかもしれない。地色が白ならどんなドレスにも合いそうだ。

 言うと、牧場主は一瞬考えたあと、顔を輝かせて私の背中をバンと叩いた。早速誰かに相談しにいくのか、大喜びで駆け去っていくのを笑って見送る。

 まぁ、いつもどおり、お代はツケでけっこう。


 それにしても、どうやら王都に新しい流行を生み出した予感がする。

 私の案なのだから、一枚噛ませてもらっても良かったかなと、少し惜しかった日。


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