⑪(完)
それから1週間後。
カゲヒコはいつものように冒険者としての仕事をこなして、のんびりと王都を散策していた。
「今日も王都は平和である・・・って」
「おお、久しぶりだな! 賢者クロノよ!」
「お久しぶり、です・・・」
道に面した喫茶店の屋外テーブルから声をかけられた。
振り返ると、喫茶店のテーブルの上に仁王立ちしているニクジャガンの姿があった。
「・・・生きてやがったか。その様子だとキャンティは撒けたのかよ」
「うむ、2、3回斬られてしまったがな! 不死で助かったぞ!」
「ペロペロキャンティ・・・許さないの」
「そっちの娘は・・・ひょっとしてクリョウカンか?」
喫茶店のテーブルには一人の少女が腰掛けていた。
青みがかった銀色の髪をショートカットにした少女は、可愛らしいデザインのブラウスと短パンを身につけている。
黒いフードをかぶっていないから最初はわからなかったが、明らかにクリョウカンの声である。
「へえ、意外とカワイイ顔してるじゃないか。見違えたぞ」
「貴方に誉められても嬉しくない・・・」
「うむ! クリョウカンは魔王軍一の美少年だからな! 宝石のような美貌だろう!」
「魔王様・・・嬉しい」
「そうかよ・・・・・・って、美少年!?」
元・魔王の言葉にカゲヒコは穴があくような勢いでクリョウカンを見た。
スラリと通った鼻筋、長いまつげ、薄い唇、どれをとっても美少女としか思えないパーツである。
アイドルとしても十分に通用する容姿である。
「そうだぞ? クリョウカンは見ての通り美少年だ」
「見てわからねえから驚いてんだよ・・・まさか男の娘だったとはな」
「うむ? そうだな、男の子だな」
やや違うニュアンスで言うニクジャガン。
クリョウカンは自分の話をしていると気づいていながらまるで気にした様子はなく、ミニマムサイズのニクジャガンを撫でたりつついたりしている。
カゲヒコはため息をつきつつ、話題を転換する。
「ところで・・・お前らこれからどうする気だよ?」
もしも二人がバラバラに封印されたニクジャガンのパーツを集めて復活をしようとしているのなら、カゲヒコとしても放置するわけにはいかない。なんとしてでも阻止しなければ。
そんな覚悟をもっての問いであったが、ニクジャガンは笑いとばした。
「心配しなくても私は復活する気などない。ましてや、魔王に復権して人類を殲滅するなどもってのほかだ」
ニクジャガンはテーブルに置かれたケーキをフォークで切り取る。フォークはニクジャガンと同じサイズがあり、切り分けられたケーキも元・魔王の頭部ほどの大きさがある。
明らかに口に入らない大きさのケーキにバクリと食らいつき、ニクジャガンはもしゃもしゃと咀嚼する。
「この大きさのほうが腹いっぱいスイーツを食べられると分かったからな! ペロペロキャンティに私の生存がバレたせいで命を狙われていることだし、しばらくは旅をしながら甘いもの探しだ!」
「魔王様と二人旅・・・うれしい」
堂々と胸を張るニクジャガン。クリョウカンはうっとりと瞳を輝かせている。
「そーかよ。勝手にしてくれ・・・ん?」
カゲヒコはうんざりとしたように空を仰ぎ・・・・・・ふと喫茶店の屋根の上に日を背にして立つ影を見つけた。
「見ーつけた」
「あ・・・」
満面の笑顔をもって立った白い影。手には両刃の剣を下げている。
「お命頂戴!」
周囲の迷惑も考えずに街中で剣を振り回すペロペロキャンティ。
凶器を振り回す女鬼の姿に道行く人々から悲鳴が上がる。
「ぎゃあああああああっ! ケーキがああああああああ!」
「くっ、ペロペロキャンティ! 不意打ちとは卑怯です!」
ニクジャガンは机ごと真っ二つに切られたケーキを見て絶叫を上げて、クリョウカンがそんな元・魔王を抱きかかえて遁走する。
「・・・今日もいい天気だなー」
リアルな鬼ごっこをする3人の魔族の背中を見送り、カゲヒコは現実逃避をするようにつぶやいたのであった。
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