⑨
迷宮には様々な罠や仕掛けがあったが、全て日本語によって補足が書かれていたため、攻略自体は難しくなかった。どうやらこの迷宮は日本人以外がセージ・タチバナの遺産を手にいれることができないように造られたようだ。
厄介なのは、むしろ――
「クロノス先生! 危ない!」
「ぎゃあああああああああっ!」
迷宮のモンスターと戦っているクロノスの背中に、エマが放った魔法が炸裂した。文字通りに背中に火が付いたクロノスは、ゴロゴロと石でできた床の上を転がりまわる。
「な、何してるんですかアンタは!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
魔法で水を出して背中の火を消しつつ、クロノスが叫ぶ。ついでに襲いかかってきたゴーレム型のモンスターを魔法で破壊する。
ゴーレムの胸元には『弱点・雷』と書かれていたため、指示通りに雷属性の魔法を使うと簡単に倒すことができた。
「エマ先生、いい加減にしてもらえませんか?」
「ううっ……ごめんなさい……生まれてきてごめんなさいい……」
「連れてくるんじゃなかった……失敗した」
迷宮の攻略を初めて1時間ほど経っているが、はっきり言って最大の敵は背中にいた。
エマ・カローラという女性のドジっぶりは目に余るものがあった。
ボタンがあれば躊躇なく押す。レバーがあれば容赦なく引く。
全ての罠にことごとく引っ掛かり、もはや呪われているとしか思えないほどにこちらを巻き込んで盛大に自爆する。
もはやこの女は自分を亡き者にするための刺客なのではないかと思ったところで、ようやく迷宮の最奥へと到達した。
「ここがゴールみたいですね」
「ううっ……死ぬかと思いました」
「私もですよ。主にあなたのせいで」
「ううう……」
強縮したように縮こまるエマを軽く睨みつけておいて、クロノスは装飾がついた巨大な扉を見上げる。
扉には球体の何かを嵌めこむための穴が開いている。そして、扉の前の台座には見るからに怪しそうな玉が置いてある。玉は十数種類あり、全て色がバラバラになっていた。
「この玉のどれかを嵌めろってことだな。問題はどの玉が正解かだけど・・・」
扉には3つの動物の絵が描かれている。
一つ目はオオカミのような四本足の獣。二つ目は獰猛な牙を剥いた大猿。最後は翼をはためかせて天を舞う怪鳥だ。
「オオカミ、サル、そして鳥……」
「そうですねー、私が好きな色は……」
「勝手に触らない!」
適当な玉を嵌めようとするエマに一喝しておいて、クロノスは腕を組んだ。
これまでの罠や仕掛けは日本人であれば簡単に回避することができるものだった。となれば、この扉の仕掛けも日本人であれば正解がわかるものだろう。
「あ、私はピンクが好きです」
「だから勝手に……」
いや、とクロノスは言葉を切った。
「いいですよ、ピンク色の玉を嵌めてください」
「あ、いいんですか。カチっと」
これまでのトラップに何も感じるものがないのか、躊躇いもせずにエマはピンクの玉を穴に入れる。ガチリと音が鳴って扉が左右に動き出した。
「わ、わわわわっ……!」
「犬、サル、キジとなれば、桃太郎が定番でしょう」
クロノスは肩をすくめて、開かれた扉の中へと足を踏み入れた。
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