「ふむ?」


 クロノスは魔方陣に手をあてて魔力を注ぎ込んでみた。

 しかし、魔方陣に変化はない。穴の開いたコップに注がれた水のように魔力は床下へとこぼれていく。


「違うな……ということは、『ここ掘れ、ワンワン』という言葉がカギだな」


 板を外して下を掘れ――などという意味ではないだろう。

 クロノスは魔法陣の上に手を置いて、魔法を発動させる。


「第二階梯魔法【掘削ディッグ】」


「ひゃっ! 何ですか!?」


 クロノスが魔法を発動させると、魔法陣が青白い光を放った。

 予想通り、特定の魔法に反応して発動するようにセットされていたその魔法陣は、クロノスの魔法に反応してその効果を発揮する。

 青白い光に包まれて、次の瞬間には見覚えのない洞窟の中にクロノスとエマは立っていた。


「な、何が起こったんですか!?」


「転移魔法のようですね。どこかの洞窟……いえ、ダンジョンに飛ばされてしまったようです」


「そんな……どうすれば出れるのでしょう?」


 道は左右に広がっている。どちらに進むのが正解だろうか。


「いえ、簡単ですよ。正解は右です」


 ダンジョンの壁を見ると「お箸を持つ方へ進め、ワナ注意!」と日本語で書かれている。

 その言葉自体が罠である可能性はゼロではないが、罠に嵌めるつもりであればこの世界で読める者がいない日本語で書く理由がないだろう。


「心配はいりません。おそらく、これはこの学園の創設者が創った人工ダンジョンです。指示通りに進めば出ることができるはずですよ」


「この古代文字みたいなものが読めるんですか!? さすがはクロノス先生です!」


 何やら誤解をしているようだが、わざわざ真実を話してやる意味はない。クロノスはエマを伴ってダンジョンを進みだした。


「罠があるみたいですから、くれぐれも迂闊に行動しないでください」


「わかりました。慎重に行動しますね!」


 そう言いながら、エマは壁についていた赤いボタンを押した。

 カチリと小さく音が鳴って、壁の向こう側で何かの装置が作動する。


「……エマ先生。何でボタンを押したんですか?」


「え、えーと………………なんとなく?」


 床が左右に開いた。クロノスとエマの身体が落とし穴に吸い込まれる。


「きゃああああああああああああっ!」


「何してるんですかああああああ!」


 飛行魔法を習得していてよかった。その日、クロノスは改めて自分のチート能力に感謝をするのであった。

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