演習場に移動したクロノスとルナは、5メートルほどの距離をとって相対した。

 少し離れた場所から、エマと他の生徒達が二人の決闘を見守っている。生徒達は口々にクロノスへのヤジを飛ばし、エマは心配そうな様子で臨時講師の男を見守っている。


「ミスタ・クロノス。さきほどの無礼を撤回していただけるのなら、手加減をして差し上げますよ」


 自信満々。自分が決して負けるわけがないというふうに胸を張り、ルナがクロノスを挑発する。クロノスはそんな女子生徒の様子を微笑ましげな表情で見やる。


「お気遣い感謝しますよ。ミス・サロモン。確認をさせていただきますが、この決闘に私が勝ったら特進クラスの生徒達は私のいう事を聞いて授業を受ける。貴女が勝ったら、私が学園を去る――ということでしたね?」


「ええ、それで構いませんわ」


 事前に話していた取り決めを確認すると、ルナはうっすらと微笑んで頷いた。その自信満々な表情からは「自分が負けるわけがない」という心の声が聞こえてくるようだった。

 クロノスは心配そうに見守っているエマを振り返り、


「それでは、はじめましょうか。カローラ先生。合図をお願いします」


「わ、わかりました。それでは双方、構えて…………始め!」


 エマの合図とともに、ルナが杖をクロノスへと向けて詠唱を始める。


「紅蓮の業火よ、我が前に顕現し、その熱き腕をもって……」


「ほう」


 クロノスは感心したように目を見開く。

 詠唱からして、ルナが使おうとしているのは第4階梯魔法【紅蓮業火ギガフレア】。炎属性の単体攻撃魔法としては最強の一つである。【賢者】のチート能力を持っているわけでもない少女がそれを使えるというのだから驚きである。


「天才だな。だが、惜しいな」


 クロノスは素早く魔法を発動させる。無詠唱で発動させたそれは第1階梯魔法【ストーン】。ただ石を出して飛ばすという子供のイタズラのような魔法である。


「焼きつく……ひゃっ!?」


 顔面に迫ってきた石をルナは慌てて防御する。手に持った杖に弾かれて、クロノスが放った石が地面に落ちる。


「続いて……」


 クロノスはたて続けには魔法を発動させる。


 第1階梯魔法【マッド】。ルナの足元へと湿った泥を飛ばす。

 第1階梯魔法【ウィンド】。突風をルナの身体へと吹き付ける。


「くっ、何を……きゃあっ!?」


 それは攻撃力も何もない風だったが、ルナは足元の泥に靴を滑らせて尻もちをついてしまった。慌てて起き上がろうとするが、すぐ目の前まで新任の臨時講師が近づいてきていた。


「あ……」


「はい、これでチェックメイトです。影よ、縛れ。第2階梯魔法【影縛シャドウバインド】」


「くうっ……そんな!」


 ルナの身体を影のロープが拘束する。両手と胴体をまとめて拘束されて、学院の制服を着た少女の身体が浮き彫りになる。


「んっ……」


「ほう、これはまた……」


 影のロープによって強調されたルナの身体はなかなか肉付きが良く、胸や尻など出るところがきっちりと出ている。

どうやら着やせするタイプらしい少女の身体に、思わず教師の仮面が剥がれて鼻の下が伸びそうになってしまう。


「おっと。いけない、いけない。えーと……ミス・サロモン。これで勝負ありですね」


「……そうですわね。信じられませんけど」


 拘束されて地面に転がったまま、ルナが悔しそうに自身の敗北を認めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る