「えーと・・・改めまして、娘のノノにゃ」


「娘がお世話になってますにゃ。母のネネですにゃ」


「孫を守ってくれて感謝するにゃ。祖母のヌヌだにゃ」


「よくわからないけど、挨拶するにゃ。曾祖母のニニにゃ」


「そして、私が一族の開祖! 高祖母のナナだにゃー!」


「うん、わからん」


 5人のネコミミ女性がそれぞれ自己紹介をする。カゲヒコは早々に白旗を上げて5人を見分けるのことを放棄した。

 5人はそろって白い髪、ネコミミ、尻尾という姿をしていて、背丈も容姿も恐ろしく似ている。目元がツリ目になっていたり、髪の長さが違ったり、せいぜい間違い探しくらいの違いしか見当たらない。


「なんというか・・・無事だったのか。ノノのご先祖さま。というか、何で無事だったんだ?」


 カゲヒコの疑問に答えたのは高祖母のナナである。


「うにゃ、私の船は状態保存のマジックアイテムを積んでいるおかげで、クジラの胃液でも溶けることなく済んでいるのにゃ」


「なるほど、それはわかったけど・・・」


 高祖母のナナは百歳を超えているはずなのに、どう見てもナナと同年代にしか見えなかった。

 エルフのような長命種であれば年をとらないのも理解できるが、獣人の老化スピードは人間と変わらないはずである。


「それは私達もよくわからないにゃ。そもそも、私がクジラに飲まれてから2年か3年しか経っていないはずなのに、なぜか娘や孫、子孫たちが次々と飲まれてきてびっくりしたのにゃ!」


「そうですね、私がノノを生んでクジラに飲まれたのは2、3ヵ月くらい前のはずですから、何かがおかしいのですにゃ」


「ふむ?」


 ナナとネネの説明を受けて、カゲヒコは眉をひそめた。


「ひょっとして、クジラの体内だけ時間の流れが違うのか・・・?」


 そうと考えれば、色々な事に説明がつく。

 目の前でほとんど年を取らずにいるノノの一族にも。10~20年に一度だけ食事をとりに海面に出てくる千年鯨の生態にも。


「なるほど、おそらく体内に時間を遅らせる魔法をかけることで、まとめて摂取した食物が腐らないように保存しているんだ。それなら食事も10年に一度でいいわけだ」


 正解と断言はできないが、おそらくそういうことだろう。

 魔法の中でも最高難易度を誇る時間操作の魔法を、クジラが使うことができるというのは地味に大発見かもしれない。


「ところで、ノノ」


「にゃ、私はニニですにゃ」


「おっと、すまない。ええと、ノノは・・・」


 カゲヒコは5人のネコミミ女性の間で指先をさまよわせる。迷っているカゲヒコを見て、一番手前のネコミミ女性が手を上げた。


「私がノノにゃ」


「いやいや、私がノノにゃ」


「違うにゃ、私がノノにゃー」


「にゃにゃ! 私こそノノにゃ!」


「ええと、それじゃあ私が・・・」


『どうぞ、どうぞ』


「なんでそのネタ知ってんだ!?」


 この猫たちは状況を理解しているのだろうか。一族がそろった途端に緊迫感が消えてしまった。

 それはともかくとして。


「このまま胃袋の中にいたら、すぐに浦島太郎になっちまう。早く脱出しないと・・・」


 すでに胃袋に入ってから1時間ほど経っている。クジラの体内が外よりも時間の流れが速いと仮定すると、外ではすでに数日が経過しているかもしれない。じきに千年鯨が食事を終えて深海に潜ってしまうだろう。


「にゃにゃ! それは困るにゃ! どこかに出口がないかにゃ?」


「にゃー、そんなものがあったら、とっくに私達も出ているにゃ・・・」


 本物のノノの言葉にネコミミ女性の一人が申し訳なさそうに否定する。


「ここにいれば外から魚がたくさん入ってくるし、意外と住み心地は悪くないのにゃ」


「そうにゃ、ノノもここに住むのにゃ」


「何言ってるのにゃ! 私は千年鯨のお肉を食べるために漁師をしているのにゃ! クジラの胃袋に住むためじゃないにゃ!」


 ノノがきっぱり断言すると、他のネコミミ女性たちがはっと目を見開いた。


「そ、そうだったにゃ! 私達は大切なことを見失ってたにゃ」


「未知の味の追及。それが一族の悲願にゃ」


「にゃー! 覚悟を決めたにゃ! 何としてでも胃袋を脱出するのにゃ!」


 にゃー、にゃー、と姦しく騒ぐネコミミ女性達。

 何はともあれ、覚悟を決めてくれたのは有り難い。


「それじゃあ、本格的に脱出といこうか・・・わりと変化球な方法を使うから、みんな覚悟しておいてくれよ」


 カゲヒコはそう言って、手の平に魔力を集めた。

 千年鯨からの脱出作戦の始まりであった。

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