③
千年鯨をターゲットに定めたカゲヒコは、クジラの目撃情報を求めてとある漁村へと足を踏み入れた。
「ああ、まったく千年鯨のせいで商売が上がったりだよ」
「こっちもだよ。魚が全然取れやしねえ。まあ、10年に一度はあることなんだが」
「ふーん、それで千年鯨を目撃した人はいないのか」
漁村の漁師たちに聞き込みをしていたカゲヒコは本題を切り出した。肝心のクジラを見つけることができなければ、胃袋の中身を取り出すどころではない。
カゲヒコの質問に日焼けした漁師の男は顔をしかめた。
「アンタ冒険者かい? やめときなよ、千年鯨は相手が悪い」
「あいつが出るようになってからは沖に出ちゃいない。目撃者なんていないよ」
「うーん、そうか」
すでに何人かの漁師に聞き込みをしているが、いまだにクジラの目撃情報はない。このままでは、クジラを見つける前に深海に逃げられるかもしれない。
「そうだ! ノノちゃんだったら何か知ってるんじゃないか!」
「ああ、あの子だったらもしかしたら・・・」
「誰だい、ノノちゃんとやらは?」
初めて聞く名前について尋ねると、漁師は「それがな」と切り出した。
「ノノちゃんのとこは代々腕のいい漁師なんだけど、なぜか千年鯨に執着していてな。止せばいいのにクジラが出るたびに沖に舟を出してクジラを獲ろうとしてるんだよ」
「ノノちゃんのお母さんも、婆さんもクジラに飲まれちまってな。あの子もそうならなきゃいいんだが・・・」
「へえ、それはまた命知らずな・・・ところで、女の漁師さんなんて珍しいな」
この世界でも力仕事が多い漁師は男性が中心である。実際、カゲヒコが聞き込みをした漁師は全員、男だった。
「ああ、あそこの家は女ばっかり生まれるからな」
「そういう血筋なんだろ。難しいことは知らんがね」
「ふうん、いろいろ教えてくれてありがとよ。これで一杯飲んでくれ」
「おお、ありがてえ! クジラのせいで漁に出れなくなっちまって、財布が寒くて困ってたんだ!」
カゲヒコが差し出した銀貨を嬉しそうに受け取り、漁師の男達は去って行った。
「ノノちゃんね・・・まあ、会ってみようかね」
漁師から聞いていた場所に行くと、浅瀬に小型の漁船が泊められていた。カゲヒコは船に向かって声を張り上げた。
「おーい、誰かいるか! 話を聞かせてくれ!」
「んー、お客さんにゃあ?」
ひょい、と漁船の中から一人の少女が顔を出した。
年齢は18歳くらいで、美少女と呼んでも差し支えのない容姿。漁師にしては色白な肌をしていて、アルビノなのかショートカットに切りそろえた髪の毛も真っ白である。
「にゃあ、知らない人にゃ。どちらさんにゃ?」
そんな彼女の頭の上には、真っ白なネコミミが生えていたのであった。
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