それは5年前のこと。ライムがまだ10歳の頃のことだ。

 当時、ライムは田舎にある小さな村に暮らしていた。父と母、優しい姉に囲まれて、貧しいながらも幸せな生活を送っていた。


 しかし、そんな幸せな生活は突如として崩れ去った。

 村をゴブリンの群れが襲ってきたのだ。


「エルマ! ライムを連れて逃げろ!」


 父の怒声が響き渡る。父と母は、私と姉を逃がすために村に残って、ゴブリンを足止めするために火を放った。

 燃える故郷を背にして、ライムは姉に手を引かれて村から逃げ出す。


「あっ・・・」


「ライム!」


 逃げる最中、ライムが足をもつれさせて転んでしまった。ライムを助けるために姉の足も止まってしまう。そんな姉に1匹のゴブリンが跳びかかってきた。


「シャアアアアアア!」


「きゃあああああっ!」


 人間の大人と同じ大きさのゴブリン。それがホブゴブリンと呼ばれる魔物であることをライムは後に知ることになる。


「姉さん!」


「ライム、逃げて・・・早く・・・」


 ホブゴブリンに押し倒されて身体をむしゃぶりつかれる姉の姿に、ライムの身体が凍りつく。


「逃げて・・・早く、逃げなさい!」


「ひっ・・・!」


 大人しい姉の怒鳴り声を受けて、ライムの身体が動き出す。地面に倒れる姉に背中を向けて、小さな身体に鞭を打って走り出す。


「ごめんなさい・・・ねえ、さん・・・」


 振り向いて肩越しに見た姉の姿。その姉の身体に乗りかかり、姉の身体を蹂躙するゴブリン。その肌は燃えるような赤色をしていた。






「きゃあああああああああああっ!」


「っ!」


 ライムは女性の悲鳴に起こされた。

 慌てて周囲を見回すと、そこには地獄が広がっていた。


「いやあああああ! やめてええええええ!」


「ダメええええええっ!」


「ひ、あっ、ゆ、ゆるして・・・もう、やめて・・・」


「そんな・・・」


 そこはゴブリンの産卵場だった。

 木のツタで縛られた大勢の裸の女性。それを緑色の肌のゴブリン達が代わる代わる犯している。

 ゴブリンに犯されている女の中には、襲われた村の娘だけではなく、ライムとは別のルートから森に入った冒険者の姿もあった。


「ひどい、こんなの・・・あんまり・・・」


「ほう、何がひどいのだ。人間」


「っ!?」


 あまりの光景に呆然とするライムに背後から声がかけられた。慌てて後ろを振り返ると、そこには憎い仇の姿があった。


「赤い、肌の・・・ゴブリン!」


 姉を犯して、殺したゴブリン。それが目の前にいた。

 跳びかかろうとするライムであったが、いつの間にかライムの身体も縛られていて、身動きをとることができない。


「くくっ、可愛らしく藻掻くものよ。まるで蜘蛛の糸にかかった蝶のようだな」


 なんとか拘束を解こうともがくライムに赤ゴブリンの嘲笑が浴びせられる。流暢な人間の言葉を話しながら、赤ゴブリンはニヤニヤと顔を歪めて笑う。


「あなた・・・どうして、人間の言葉を・・・」


「ゴブリンごときに人の言葉は理解できぬと? 我らに蹂躙されるしかない肉袋の分際で、随分とほざくものよ」


「答えて・・・!」


「ふんっ、まあ、いいだろう」


 ライムが再度、問いかけると、赤ゴブリンはもったいぶったように動物の皮で出来た上着を脱いで胸部を露出させる。

 露わになった赤ゴブリンの胸元には、緑色の宝石が埋め込まれていた。


「それは・・・」


「ははははっ、これぞ魔族の至宝『進化の秘石』。魔物の進化を促し、繁栄をもたらす王者の石よ!」


赤ゴブリンは誇らしげに言って、高々と笑った。

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