「進化の秘石・・・?」


 ライムには聞き覚えのなかったそのマジックアイテムは、魔王が倒されたことで人間サイドに流出したオーバーアイテムの一つであった。

 埋め込まれた魔物を急速に進化させ、周囲の魔物にも成長を促す。さらに、繁殖能力を増大させ、魔物の巣窟を生み出す悪魔の秘宝。

 かつて、魔王が人間国家侵略の際に使用して、勇者パーティーが立ち向かったマジックアイテムである。


「我は最早、ゴブリンにあらず。ゴブリンジェネラルでさえ凌ぐ知恵と力を得た究極生物、ゴブリンロードである!」


「ゴブリンロード・・・!」


 それは伝説に知られるモンスターであった。

 数百年前、ゴブリンの軍勢を率いていくつもの国を滅ぼし、ゴブリンの楽園を築いた怪物。当時の勇者によって討伐されるまでに、数千万のゴブリンの軍勢を産み落とした災厄のモンスターである。


「貴様は私のことを仇と呼んだな? どこかで会ったか?」


「覚えていないというの!? わたしの・・・姉さんを殺しておいて!」


「ふむ・・・」


 ゴブリンロードはライムの髪を掴み、強引に顔を上げさせる。


「くっ・・・」


「ほう、なかなかの上玉だな。くくっ、思い出したぞ」


 ゴブリンロードはライムの顔を舐めるように見て、愉快そうに笑う。


「あのときの女の妹か! 覚えているとも! あれは実に良い具合の肉であった。冒険者共が来なければ子を孕ませて肉袋にしてやったものを、時間がなかったせいで喰らうしかできなかった肉だ!

 はははははっ! これはいいぞ! あのときの肉の妹が、姉の代わりに我が子を産んでくれるというわけか!」


「誰がっ・・・あなたの子供なんて・・・!」


 姉の仇であるゴブリンに犯されて、子を孕ませる。

 そんな屈辱が、この世にあるわけがない。


「勝者は敗者を蹂躙する。それは世の常ではないか! お前だってここに来る途中、大勢の同胞の命を奪ったではないか! さんざん、ゴブリンの命を奪っておいて、自分は奪われるのは嫌だと!? お前たち、人間のそういうところが傲慢なのだ!」


「ひっ・・・!」


 ゴブリンロードはライムの鎧を強引に剥ぎ取り、服を破る。ライムの白い肌が露出する。


「やめて・・・お願い・・・!」


「はははっ! あの女と同じく、実にうまそうな肉だ! せいぜい泣き喚くがよい!」


「いやっ・・・!」


 ゴブリンロードの赤い手がライムの胸を掴む。いまだ誰にも触れられたことがない処女雪のような肌を、醜く顔を歪ませたゴブリンの手が蹂躙する。


「ひっ・・・あっ・・・!」


「く、ははははははは・・・は?」


「悪いけど・・・凌辱系のエロゲは趣味じゃあないんだよな」


 ゴブリンの産卵場に、場違いにのんびりとした声が響く。

 同時に、ライムの身体を蹂躙していたゴブリンロードの右腕が、半ばで切断される。


「ぎ、が、がが、ギャアアアアアアア!!」


「ギッ!?」


「おやぶん、ドシタ!?」


 ボスが上げた悲鳴を聞いて、囚われた女性を犯していたゴブリン達が慌てて行為を中断させる。

 ゴブリン達の視線の先には、一人の男の姿があった。ゴブリンロードは、自分の腕を切り落とした男に怒号を浴びせる。


「ナ、ナナ、キ、さまあああああ! 何をする! この私の腕がああああああ!」


「悪いな。ここから先は俺のターンなんだよ。華麗な怪盗の舞台にそういう鬱展開はいらねえよ」


 ゴブリンロードの怒号を軽く流して、怪盗シャドウは肩をすくめて答えたのだった。


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