②
「元の世界に帰れない!? それはどういうことですか!」
とある異世界にある小さな国――ブレイブ王国。
その王城にある「玉座の間」で、彼らは国王を問い詰めていた。
「俺達が魔王を倒したら元の世界に帰してくれるという約束だったじゃないですか! 帰せないってどういうことですか!」
白銀の鎧を身にまとった少年が、玉座に腰掛けた王に向けて叫ぶ。
少年の名前は白井ユウジ。日本からこの世界に召喚された異世界人であり、魔王を討伐した【勇者】である。
「ふむ、これは我々にも想定外のことで申し訳ないのじゃがな・・・」
ユウジの詰問に、国王は白い髭を手で撫でながら困ったように言う。
「実はそなたらを帰還させるために必要な神器が、何者かに盗まれてしまったのじゃよ。おそらくは隣国の仕業だと思うのじゃが・・・」
「そんな・・・」
絶望の声を上げて、ユウジの後ろにいた少女が膝をつく。赤い鎧を身につけた彼女の名前は紅野レナ。ユウジの幼馴染みであり、この世界では【戦乙女】という職業についている女剣士である。
普段は気丈な彼女も元の世界に帰ることができないという事実に打ちのめされ、瞳には涙が浮かんでいる。
「ほっほっほ、安心するがよい。勇者よ。奪われてしまったのであれば取り返せばよいのじゃ」
絶望に膝をついたレナをよそに、国王が場違いに明るい口調で言った。
「隣国から神器を取り戻すことができれば、今度こそ、そなたらをもとの世界に戻すと約束しようではないか。我らも力添えをするゆえ、共に戦おうではないか!」
「そんなっ・・・!」
「それは・・・私達に戦争に参加しろって事ですか?」
勇者パーティーの3人目、【聖女】の青崎シノンが尋ねた。レナよりも頭一つ以上は小柄な少女は、厳しい瞳で国王を睨みつけながら、その真意を問い詰める。
「ふむ、悲しいことではあるが、そういうことになるな。人間国家へと侵略をしてきた魔王を討伐してくれた勇者達への褒美を奪い取ったのだ。隣国にはそれ相応の報いを与えてやらねばなるまい?」
「でも、隣の国が盗んだと決まったわけじゃ・・・」
「ほう? それでは、どうする? 貴方が盗んだのですかと聞いてみるか? 盗人が素直に罪を認めると思っているのか?」
「っ・・・!」
シノンの言葉を鼻で笑い、国王は嘲るように言葉を重ねる。
「もちろん、勇者殿が元の世界に帰りたくないのであれば、我々としてはいっこうに構わぬよ。我らとて、勇者達がこの世界に残ってくれるのであれば、とても喜ばしい。そのときは、魔王討伐の褒美として貴族の地位を与えようではないか」
「貴族になんてならなくていいっ! 元の世界に返してよ!」
「レナ・・・」
座り込んだまま悲鳴を上げるように叫ぶレナ。ユウジは彼女の肩に手をのせて、気遣わしげに撫でる。
「ふむ、ならば隣国に攻め込まねばなるまいな。いやはや、魔族との戦いが終わった途端に人間同士で戦争が起こるとは、嘆かわしいものじゃ」
白い髭の下でニヤニヤと唇を歪める国王を、ユウジは強く睨みつけた。
召喚されたときから、目の前の老人は信用できなかった。
言葉では勇者である自分達を持ち上げるようなことを口にするものの、内心ではこちらを見下して利用しようとしていることがありありと伝わってきたからだ。
それでも、ユウジたちが彼らの要望に従って魔王と戦ってきたのは、人間達が魔族に襲われていて助けを求めているというのが真実であり、魔王を倒したあかつきには元の世界に返してくれると目の前の老人が約束したからだ。
(本当に神器が盗まれたかどうかなんてわからない。ひょっとしたら、元の世界に帰る方法なんてないのかもしれない・・・)
ユウジはそう思った。しかし、それを目の前の国王に問うことはできなかった。
玉座の間にいるのは自分達と国王だけではない。側近の騎士達もいるし、王国の最高戦力である騎士団長だって同席している。
(下手に断ったりしたら、レナやシノンを危険にさらしてしまう。いったい、どうすれば・・・)
何とかこの場から逃れる方法を考えつつ、ユウジは口を開いた。しかし、ユウジが言葉を発する前に、
「茶番だな。付き合ってられねえよ」
勇者パーティーの最後の一人。
【賢者】黒野カゲヒコがうんざりしたように言ってのけた。
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