温かい寒冬
スーパーへの道、北風に身震いをひとつ。
こんな日はコートを羽織るべきだった。つい昨日まで秋だったのに急に寒くなるのだから季節ってやつは何とも気まぐれだ。
「…寒いね」
隣を歩くだーりんが呟いた。誰にともなく、といった調子で、しかしこちらをちらりと見て。
「そーだね…風邪引かないように、今日はお鍋にしよっか」
「ん。ポン酢は家にあるよね?」
「うん!白菜は買ってこう。しゃぶしゃぶもやる?お肉今日安いって」
「じゃあやろっか。二人だとちょっと寂しいかもしれないけど」
「そうかなぁ、俺はそんなに寂しくないけど…。あ、えるだも呼ぶ?」
「要らない」
そっぽを向いてしまった。年上のはずなのに変なところであどけない。こっち向いてよ、と視線を送っているとふと変化に気づいた。
「マフラー…」
思わず漏れた声。肩がぴくりと震え、冷えきった湖畔のような色の瞳が揺れたのは、気温のせいだけじゃないだろう。
「着けてこなかったんだね」
以前は夏でも、武装するみたいに巻いてたのに。この言葉は喉で押しとどめた。
「…別に、今要らないかなってだけ」
だーりんは視線を合わせずぼそぼそ言った。
「寒いって言ってたのに…?」
俺は慎重に尋ねる。だーりんは煩わしそうに溜息をつくと、答えた。
「キミが鍋作ってくれるんでしょ。あったかいから、要らないよ」
答えになってないような、最高の答えであるかのような。なるほどそれなら要らないね、とおかしくもそう感じた。どんなに寒くても毎日ほかほかのご飯を炊いて待っていよう。家は温かみを護る砦のように、暖色の灯りをともして。きんと澄み渡った空気に軽やかな笑い声を乗せる。
「今夜はしゃぶしゃぶだよ。だーりんも一緒に作るの!」
ありふれた日々を家族の距離で過ごせることが、もう当たり前になったころ。
雑多 @donuts_07
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。雑多の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます