第四幕
四、呉服橋御門内北町奉行所の場
【それから、八五郎は事あるごとに、町の内外を問わず品川氏の源流を聞いて回るので、いよいよ衆人の疑惑するところとなった次第です。人の口に戸は立てられず、噂は風より早い、と古より申します通り、界隈では、神田竪大工町に長屋住まいの八五郎が、何やらご高家品川氏の素性を日夜探っているということが人々の噂に上ります。そして、遂にはこれが御奉行様の御耳にも入ります。さらに、噂に尾鰭は附き物と申しますが、噂する人によって、八五郎が品川様の素性を探るのは、それ御目付の密命を帯びてのことであるやら、はたまた、あれ主家の仇討ちのためであるやら、様々な根も葉もない推測がまことしやかに語られるようになりました。そこで、御奉行様は、巷の懸案解決のために動き出しまして、八五郎を呉服橋御門内北町奉行所へとお呼び出しになりました。さて、この後はどうなることやら、続く顛末は本題にて】
奉行 「輓近、神田界隈において、畏れ多くもご高家品川氏の素性を何かと嗅ぎ回る怪しからぬ輩有ると聞くに、それは汝のことで相違ないか?」
八五郎 「ははぁーーー、憚りながら申し上げます。チぃとばかり相違有馬の水天宮」
番人 「コラッ、失礼な言葉は慎め」
八五郎 「ははぁーーー」
奉行 「マァ、よい。そうであるならば、その相違を詳らかにせよ」
八五郎 「ははーー、相違と言うのは、品川様の出自を尋ね歩く目的のことでございますぅ。決して怪しからぬ目的ではございませんで」
奉行 「ふむ、では真の目的を詳らかにせよ」
八五郎 「ははぁーーー、その目的というのは」
奉行 「その目的というのは?」
八五郎 「目的というのは・・・女郎買いでございます(ト蚊の啼くような声)」
奉行 「何、女郎買いとな?合点がゆかぬ。なにゆえ女郎買いに、ご高家の事情を問う必要があるのじゃ?」
八五郎 「申し上げますれば、大変お恥ずかしく・・・飛んだ笑い種ですぁ・・・」
奉行 「ここは天下御免の奉行所であるぞ、正直に申せ」
八五郎 「実を申しますと・・・かくかくしかじか(ト大家に言った通りの郭での顛末を語る)」
奉行 「ハッハッハッ、なるほど、馴染みの女との逢瀬の為、愛想尽かされぬが為の仕業であったか。天下を擾がす一大事かと思いきや、この忠之、トンだ見当違いをしておったようじゃ」
八五郎 「ハハァー、お解りいただけたでしょうか?」
奉行 「だが、怪しからぬことは怪しからぬぞ。斯様な軽佻な理由で、ご高家のことを調べるとは。以後は慎むように」
八五郎 「いや、しかし・・・まだ解決しておりませんで・・・」
奉行 「ならば、そうじゃ、今度来たる勅使様下向に備えて、高家肝煎畠山様がご指導なさる茶会がある。おそらくは表高家たる品川様もいらっしゃるであろう、儂も庶務として侍るゆえ、機会あらば尋ね申し上げておいてやろう」
八五郎 「ハハァー―、有り難き幸せーー」
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