墜☆落


「ギコちゃん!武装は?」

『きゅきゅううん!きゅん!』


 きゅっ!とギコちゃんが肉球でカーナビをタップすると、5つのボタン表示が出てきた。


 ・レーザーソード

 ・レーザーライフル

 ・超圧式収束ファイヤーアロー砲

 ・ESフィールドバリア

 ・ESウイング飛べるきゅん


 こ…これは…!

ロボットアニメさながらじゃないか!!!


ふむふむ…ESウイングで移動と接敵、レーザーライフルで遠距離から射撃、レーザーソードで近距離攻撃、ESフィールドでガードして、超圧縮式ファイヤーアロー砲――怖えぇ…――で、トドメの一撃ってところか。


飛行機能に遠距離・近距離攻撃とバリア、それにトドメの必殺技まで…!

万能型主人公機!これはパイロットの腕が試される機体かも分からんね…!

しかし、超圧式収束ファイヤーアロー砲ぶっ放してー。っていやいや…昨日大変なことになったばっかりじゃないか…。


 いやしかし、グッジョブ…!グッジョブだギコちゃん…!


 でも、こんなに武器なんて積んでたかな…?特に武装は外観からすると見当たらなかったけど…?


待たされている野郎共がざわ付き始める。そろそろ次のパフォーマンスをはじめないとな…!

「まいっか。えいっ!」

 俺は[レーザーソード]のボタンを押した。


 すると地中や空中から粉末のようなものが集まってきて、ロボット――ES350(で、いいや名前)の目の前に筒のようなものが現れた…!


「こ、これは…!必要な素材をこの世界から集めて目の前で作っているのか…!?」


『きゅううううーーん!!』

(そうだよ!)と言ってる感じのギコちゃん。凄いぞ…!


 俺はES350の右腕でそれを掴むと、紫色の光の刀身が現れる。


「「「うおおおおおおおおおすげええええええええええ!!!!」」」


「ビ、ビームサー…レーザーソードだ…!本物の…!」

 俺はそれをブオンブオンと振り回す。そのたびに周囲から野太い歓声が生まれる。


 そしてその[レーザーソード]をひとしきり振り回した後で、今度は[レーザーライフル]のボタンを押す。

 どこからともなく目の前に高速で集合する粒子が、持ち手から[レーザーライフル]を形成していく。



「これで戦いたかったなあ、魔王と…」


 そうポツリと呟くと、俺はESを操作して[レーザーライフル]の銃口を天空に向け、トリガーを引く。


 ドキュウウウウウウウウウウン!!!!

 [レーザーライフル]が放った赤色の閃光は雲を突き破り、天空の向こうへ吸い込まれていった。

 たかが[レーザーライフル]が…なんという破壊力…!


「「「う、う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 もはや阿鼻叫喚のような男たちの…いや漢達の歓声が、コックピットの中まで大音量で響いてくる。


 《野郎ども、フィナーレだ!!目ン玉ひん剥いて見ておけよおおおお!!!》


 俺は子供心を忘れない真の漢達を煽ると、ESウイングのボタンを押した。


 コックピットの右後ろと左後ろで、砂の擦れるようなサーッとした音がする。

 そして一瞬後に、ガシャーンッ!とES350の比重が背中側に掛かる。


「よし、行けるッッッッッ!」



 《いいか、離れてろよおおおおおおお!!!》

 ヴィイイイイイイイイイイイイイイ………!!!

 ゴオオオオオオゴゴオオオゴオゴオゴゴゴゴゴゴ………!!!!


 《ES350パイロット、レグザス、行きまあああああああああす!!!!!》

 ドヒュウウウウウウウウウウウウウウウ!!


 強烈なGと振動が俺に襲いかかる。しかしそれすらも楽しいと感じる。

「あはははははははははは!!!良いぞ良いぞ良いぞおおおおお!!!」


『きゅうんきゅううんきゅうううーーーん!』

 おお、ギコちゃんも嬉しいか、そうかそうか!


 そして一瞬目を閉じかけた後にモニターやガラスを見ると、そこはもう、空の上だった。


 ハイテンションな漢達の世界から一気に抜け出した感覚が、俺を冷静にさせる。

「この世界も…丸いんだなぁ」


 そこは、地球のように緑や海に包まれ、ところどこに集落が見える、至って普通の地球と変わらない世界だった。


 地平線の夜から顔を出した赤と青のニつの月が、目玉のようにこちらを見てくる。

 遠いところに来た、そんな気がして涙が出そうだ。割と帰りたくないって思うのに、なんでかな…。


 高度1万メートル。一般的な飛行機の巡航高度に達した。

 よし、そろそ帰ろうか…。


『きゅ!』

「あ。」


ギコちゃんが指し示す先、決して見てはいけない物を見てしまった。

 速度表示部インジケーターに、「給油して下さい」の文字である。

 そしてエンジン音が停止、からの腹の臓器がグワッと浮き上がるあの感触。

 つまりは…



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!」



 ガソリン切れかよおおおおおおおおおおお!!!!!!!

 JAFU呼べJAFU!でなけりゃ東京陸上日働火災保あああああああ!!!いやここ異世界だったし空だしそもそもJAFUって何の略だったっけジャパううおあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!


『きゅううううううう~~~~!』

「ギコちゃんだずげでえええええ!!!」


『きゅんきゅん…』

(いや無理っす、替えのガソリン無いもん…。地表も遠いし、素材集めらんないのよ…)の意味に受け取れた…!



「まじかよおおおおおおおおおおお!!!!!!ああああああれだなんだっけアレアレアレアレアレ!!ガソリン替わりに異世界で機械でエネルギー源でなんかあああああれあれああああギャアアア嗚呼嗚呼嗚呼あああああ~~~~ああああアレだアレあれアレだ!!!魔石だああああアレ!ああああああ魔王のアレエエエエエエエエエエエエ!!!」


『きゅ!!?きゅうううううううううううん!!!!』

(ああ!アレね?ちょっと待っててーーーー!)の意味であって欲しいいいいい


 高度1000メートル、錐揉み回転する窓の外に、待ちに待った魔王のコアクリスタルが現れる。

「ぐああああああああああああ神様仏様ご先祖様ああああああああ!!!!」


『きゅうううううう~~~!!きゅううう~ん!!』

 機体が青白い光を放つと、ES350が魔王のコアクリスタルを取り込み始める。

表示機器インジケーターのアップデート表示が徐々にその進行度パーセンテージを上げていく。


やがて100%に達すると、「給油して下さい」の文字が消えた!

「よろしく…お願いしますッッッッッ!!!!」

 気が動転する俺は意味不明なセリフを吐きながらENGINE STARTのボタンを押すと、全ての計器に希望の光が灯る。


「キタアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

 俺は一気に機体の姿勢を立て直しにかかる。全身が潰れるほどの重力に息を吐きながら耐えると、なんとかホバー浮遊状態に戻した。


「ぜえ・・・ぜえ・・・!」

 高度計…高度……あれ?嘘だ…!? 14メートル…!?

 目の前には王城、そして手を振って歓声を上げる漢達…。

「「「うわあああああ…!」」」コックピットに漏れ聞こえる歓声。


これは…墜落じゃなくて、デモンストレーションで通すしか無さそうだな。

ジェット機の実践的な練習で、エンジン切ってから自由落下してからの立て直しって…あるらしいやん?


「いやー助かったー!サンキューギコちゃん!それと魔王さまさまだわほんと!いや魔王に感謝しちゃダメか…」


 俺はそのまま地面にES350ひざまずくような体制で着陸させ、後部のハッチを開いて土の上に降り立った。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!レグザス様ああああああああ」」」

 100名近い漢達が、円状に俺に押し寄せる。


「」


「「「ワーッショイ!ワーッショイ!ワーッショイ!!」」」

 そして胴上げを始めだした。

 うおお、胴上げってはじめて…!でも悪くない…!



 そして再び地面の土を踏みしめると、俺は叫んだ。

「いいか!ロボットは男のロマンだあああああああああああ!!!!!」


「「「うおおおおおおおおおおアニキイイイイイイイイイ!!!!」」」


「アニキじゃねえ!!って、いやアニキと呼ばれるほど君たちよりも年上なのかもしれない!」

そうだろう?俺は口笛をヒュ~ウと吹く


「「「うおおおおおおおおおおおおおおレグザス様ああああああああああ!!」」」


 その晩、またも宴会が開かれた。

 今度は、執事と兵士と騎士、総勢130名で…!


 後からこっそりと出てきた王(若返って見た目21歳)に、「窓から全て見ていたぞ…!やるなあ勇者レグザスよ…!」とガッとまた肩を掴まれた。

 ああ^~ ええ声(CV大●明夫)なんじゃあ^~~~~!!



 その後、使い道が出来たと言って王に魔王の身に付けていた闇銀あんぎんのローブを4分の3を返却してもらい、残りの売却を依頼した。


 買取価格が高すぎて、この国一番の商人とやらが全ては仲介できないと一旦帰ったところだったらしい。


 そして手元に返してもらった素材の全てを、ギコちゃんに頼んでES350に組み込んで貰う事にした。


 なんでもこの闇銀という素材は、ゲルとゴムの材質を併せ持つこの世界の最硬金属らしい。(ガムとゴム…ではない)

 なんでも「それは剣で斬る事は叶わず、魔法に焼かれることも無い。しなやかに作られたローブに仕立てたのであれば、ヒヒイロカネ太陽銀の分厚いフルプレートをも凌ぐ柔軟さと硬さの両面を発揮する。また、触れるものの魔力を四倍に増加させる。」とかなんとか。


「魔力四倍」の効果によって魔術師需要がとにかく高く、また、その至高の素材であるイメージから貴族にも愛好される代物らしい。つまり、いくら高価でも求める人は無限にいる代物との事。うーん、チート金属。


 異世界ものによく聞くヒヒイロカネ太陽銀オリハルコン天銀や、ミスリル聖銀というのもこの世界には存在しているが、この闇銀あんぎんそれを凌ぐ金属で、しかもそれらの半分以下の重量との事だった。


 カーボンでも強化FRPでもない異世界の素材…なんだかオラワクワクすっぞ!

 というわけで、使い道は車しか無かったな。やはり。


 最早敵が居ないこの異世界において、これは趣味…!ククク…趣味と言っても差し支えないだろうね…!


 車…改造…それは底なし沼…!そして途方も無いロマンへの入口…!

 ある人は生活費を削ってカネを投じ…またある人はそのためだけに必死に働く…!


「うひひひひひひ…」

俺はキモい笑い声を上げる。

「男なら…真の男なら分かるだろ、同志よ…!」

俺はこの世界のおよそ半分だと思われる、男達へとそっと呟く。


『きゅっきゅっきゅ…!』

 今言ったの、ギコちゃんにじゃない…!


 完成したレグザスES350は、元のボディーカラーの真っ黒からやや灰がかったメタリックへとカラーチェンジした。

 これはこれで…良いィ…!


 さーて、寝よ寝よ!じゃあなーES350ちゃん!

 ギコちゃんもおやすみー!


『きゅー!』

 ギコちゃんは虚空へ消える。


「ふぁあぁ…疲れた。死にかけたし…って、この防御力とHPなら死なないのかな?

 痛いのは嫌だから防御力に極振りしたいところだが、この異世界にはステ振りの概念が無いしなあ…。」

 客室へ帰って布団に潜ると、一気に意識が落ちた。


「ムニャムニャ…」

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