魔法の習得


「ハッ・・・!まさかお主・・・!?しかし・・・」


 そして"ファイヤーアロー"を放ってから1分後、北の空からひときわ眩い閃光が放たれ、着弾地点よりキノコ雲が巻き起こった。


「穢れた花火だぜ…!」


 と同時に、ガソリンスタンドの給油中のリッター表示のごとく、各ステータスのカウンターが高速でカウントを上げていく。


【レベル】6,831…

【レベル】9,980…

【レベル】14,367…

【レベル】40,124…

【レベル】73,859…

【レベル】99,999…

【レベル】143,973…


 2分掛けてそうしてカウントが遅くなると、俺のレベルは

【レベル】209,991

 になっていた。

 きっと今頃は、爆風が勝手に魔物を倒してくれているんだろう。

 とりあえず、俺はレベルの数字に変わり果ててしまった異世界の姿形も名も知らぬ魔物達に、そっと手を合わせておく。


【名前】レグザス

【年齢】34歳

【職業】霊能者

【レベル】211,350

【H P】3,223,682

【M P】3,996,543

【攻撃力】90,891

【防御力】150,007

【素早さ】102,554

【知 力】359,769

【幸 運】121,353

【称 号】異世界より来たりし者、魔王を討伐せし者、クレームは辞めて下さい、二度と魔法を使わないで下さい!!


 称号女神のチャットは無視。

 まだ微妙にカウントアップしているが、爆風で巻き添えを食らった何かによるものだろう。


 しかし、レベル21万1,350か…半端だな。10万を越えた時に「53万」レベルなのを相手に告げて絶望させるというアレが出来ると妄想したんだが、まだ届かんな…。


「よし!ここは一つ…」

「…ま、まま、まだ何かやらかすのか…お、おぬし…!?」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 俺は叫び声を上げる。と同時に俺の身体から灼熱の気炎オーラが溢れ出すッ!


「ヒイイイイイイイイイイイイイイ!!!?!?なななななんじゃその魔力はああああああああ!?!?!?!?!?!!」


「ファイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………」

「もうやめてくだひゃれええええええええええええええ!!!!」


「ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオルウウウウウウウウウウウウッッッッッッッッ!!!!!!!」


「アンギャアアアアアアアアアアア!!!!!?!!?!?………あ?」


「ああん?」

 不発…?いや確かに手応えは有ったんだが、何も起こらなかった。


 そもそもこのファイアーボールとやらがあるのかも分からずに勢いだけで言ったからな。チッ…。いやでも●●●●チョメチョメ波が使えるなら、架空の魔法でも大丈夫だよなあ…さて…どうしたもんか…。


「ひい…ふうう…安心したわい…!2回も心臓が止まりそうになったんじゃ…!

 で…お、お主、まさか、魔王軍の本拠地を…!?」


「まあ、レベルがガンガン上ったからな。多分、滅ぼしたぞ。魔王軍。」

「ひょ、ひょえええええええええええええ!!?!?なんたる絶大な力なんじゃ!?これが女神エルレイアに選ばれし召喚の使徒…!」


「ああん!?俺をクレーマー呼ばわりしやがったあのイカレ女は関係ねえだろ!!」

「ひいいいい!!申し訳ない申し訳ない申し訳ない…!」


「まあとにかくだ。これでこの世界は救われたな。今度こそめでたしめでたしだ!いやー魔法楽しかった楽しかったー!」


 カタカタカタカタ…と、レイン婆さんが杖を床に転がしながら震える。

 そして遅れてファイヤーアローの地響きがあたりを軽く揺らした頃、俺達は同時に異変に気付いた。


 地面が…いや!? 空が…?赤い…?


 よく見ると、空の北側の大半を炎をまとった一つの巨大隕石のようなものが埋め尽くしていた。

「ガッ・・・!ガッ・・・!ギギ・・・!」


 もはや混乱しすぎて謎の声を上げるレイン婆さん。

「あれは…?あ、ああ。ファイヤーボール…?大きくなって帰ってきちゃってまあ…」

息子夫婦の子供が、数年ぶりに実家に帰ってきた時のようなセリフを俺は呟く。


 そしてボールの定義とは一体なんだったのか。

Q.隕石はボールに入りますか?の答えは…A.廊下に立ってなさい、だ。



「ああ…このアルスガルティアの…滅亡じゃ…!滅亡…!魔王とは…お主のことじゃったか…!いや…魔法を教えてしもうたわしも…同罪…!」


 レイン婆さんがブツブツと独り言を続ける。

その独り言を、空の巨大隕石が出す超弩級の轟音が掻き消していく。


 そんな中、第一撃の"ファイヤーアロー"で何事かと驚いて修練場へと出てきた人達と俺とが、遠くでゆったりと落ちてくるファイヤーボール巨大隕石を口をポカンと開けて眺めていた。



 俺は日本に居る時にYoutudeで見た、直径400kmの巨大隕石が地球に衝突した時のシミュレーション動画を思い出していた。


 厚さ10kmの地殻が巻き上げられて"地殻津波"が起こり…深さ3000メートルの海が次々と蒸発…クレーターの直径は4,000km…!温度4,000度の熱風が、風速300メートルで駆け抜ける…!


 そして海水は全て蒸発…!海底の塩ですらも蒸発…!そして大地の全てはもれなく太陽の地表で日光浴をするようなスーパー温度に…!!


☆☆☆異世界終了のお知らせ☆☆☆

いや…現代風に書くと、ISEKAI NO OWARIか...


「ああああああああああ!!!!!まずいまずいまずいまずいまずい…!」

【異世界召喚から3分で魔王を倒した主人公は、翌日に異世界をファイアーボールで滅ぼましたッ!】


 いいいいやいやいやなんだそのタイトル、流行りそう、いや流行るとかそういう問題じゃない。

 これは流石にシャレにならん。そしてもう辺りは焼けるような気温になっていた。


「ひいいいいいあちちちちち女神様女神様女神様女神様お助けくだされええええええ…!」


「ちょ、ちょい婆さん!魔法のキャンセルは!キャンセルは出来ないのか!?」


 ゆったりと地表へと落下する――実際はとてつもない速度なのだろうが――ファイヤーボール巨大隕石を見ながら、俺はレイン婆さんに尋ねる。


「無い!そんなもんは、無い!!!いやしかし…そうじゃ!魔法解除の呪文"ディスペル"であれば――――」


 スッ…と俺は息を吸い込み、叫ぶ。

「ディッッッッッッ!!!スペルウウウウウウウウウウウウッッッッッ!!!!!!!」400km北の地表に巨大隕石が当たるか当たらないかというその瞬間、パァーンッ!という音と共に巨大隕石は光の粒子になって消えた。

 そして北の空にはポッカリと、雲ひとつ無い巨大な円形の青空が残る。


「女神様女神様…ハッ!?!」

 ちらりと目を開けて空を見上げた婆さん。


「あああああ・・・・助かったんじゃあああああああああああああ!!!!!」


 そう叫ぶと、周囲にちらほら居た王国の人間は「うおおおおおおおお!!!」と声を上げた。


 そしてその中で、婆さんが俺と目を合わせてきた。

「す、すまんな婆さん、魔法、楽しくってさあ…」


「おぬしよ…!」

「は、はい。」

 やべ、怒られる。



「攻撃魔法、禁止ィイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!」


 クワッ!と目を見開いた婆さんに、そう告げられた。

禁止ィイイイイイイ…禁止ィイイ…禁止ィイ…と、周囲に婆さんの大声が山彦のように響き渡る。



 そして周囲の好感度の下がった王国の人間が、俺を見つめる。

「うっ・・・分かったよ・・・!」



「ふんッ!世界を救った翌日に世界を滅ぼしてどうするんじゃ!

 しかし、まあええ。なんでかファイヤーアローと今の巨大隕石で魔王軍をおそらく大部分葬ったんじゃろ?あの爆発なら呼吸すらままならぬ。きっと生きてはおれん。

 それならまるでオッケーじゃ!!あらためて、ようやった!!」


【名前】レグザス

【年齢】34歳

【職業】霊能者

【レベル】390,416

思い出したように開きっぱなしだったステータス画面を見ると、またもやレベルが上っていた。


 それはまあ二の次として…ふう…あぶなかった…。


「それにお主が魔法が大好きなのは分かった。わしも悪い気はせん。

 しかし、お主もわしと同じで、魔法を禁止されたとて使ってしまうじゃろ。またアレ巨大隕石をやられては敵わん。」


「まあ、確かにな。禁止って言われると、やりたくなるのが人間ってやつだよな。」


「ふうむ…ではこうしよう。誰に使っても絶対に無害である回復魔法を2つだけ教えるでな。」

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