第15話 ハゲの証拠

ハゲを知っている人が少ない中学へ行ったが、

結局知っている人がどんどん増えた。


カツラが取れたことを見た人が、

その事実を知ってしまうのは仕方のないことだ。


ただ、それだけではなかった。



中1のある日、スクールバスで

同方面に住む4人くらいで喋っていた。

うち1人は、同じ小学校出身の明日美ちゃん。

特別仲良くしたことはないが、

3〜4年生の時に同じクラスだった。


話の途中で、彼女が鞄をガサゴソ。

すると、あるものがチラリ…

小学校の創立●周年記念の下敷きだ。

私たちが小学1年生の時に作られたもので、

みんなの顔がハッキリとわかる

航空写真になっている。



つまり、ハゲ頭の私がしっかり写っている。


ちなみにこれ、5周年毎に作られていて、

私が6年生の時にも撮影があった。

その時の下敷きには、

もちろんカツラをつけた私が写っている。

しかし、彼女が持っていたのは

1年生の時の方だった。



明日美ちゃんの鞄からチラリと見えた

航空写真の下敷きを見て、

何も知らない結花ちゃんが

「なにそれ?!写真の下敷き?

小学校?見せてー!」

と引っ張り出そうとした。



「ダメ…!」



明日美ちゃんは、必死な顔で

結花ちゃんの手を止めようと

下敷きを鞄の中へ押し返している。

ヤバイ、とでも言いそうな目をして

私の顔をチラチラ見ながら。



なぜダメなのか、なぜヤバイのか。



そもそも、いくら私のハゲ頭が写っているとはいえ、

こちらが人様の持ち物に口を出す権利はない。

でも、でも、それでも、

私はなんとも言えない嫌な気持ちになった。



帰宅後に、母に相談した。

よく覚えていないけれど、当時の私は

きっと泣きながら話したのでは。



母は、小学校時代の連絡網を引っ張り出して

明日美ちゃんの家に電話をかけた。

彼女の母と話したそうだ。

もちろん、怒るとか苦情とか、

そんなのではなくて相談として。

母ももうよく覚えていないらしいが、

彼女の母が電話口で謝っていたそうだ。



その後、彼女がその下敷きを持ち歩くのを

辞めたかどうかは知らない。

そして、そもそもなぜその下敷きを持っていたのか、

真意はわからない。

思い出としてとても大切に使い続けていたのだろうか。



持ち歩こうと思った理由はわからないままだが、

持ち歩いてそれを彼女がどう使ったのかは、

のちのち知ることになる。



結局、周囲にその写真を見せて

「あの子本当はハゲなんだよ」と

言っていたらしい。


当時、明日美ちゃんはバスケ部、

私はテニス部だった。

またその2つの部活は、部室が隣同士で

部を越えて仲良くしている人たちもいた。



彼女がバスケ部で私のハゲを広め、

それを面白がった数人が

テニス部の部室にも来て言っていったんだとか。


つまり、私が私のハゲを知らないと思っていた

テニス部の仲間たちは、

ほとんどみんな知っていたらしい。




「前髪切った?」

「うん、なんか変になっちゃった。」

これはカツラをつける位置が少しズレていただけだ。

 


「髪伸びたねー!」

「うん、最近全然切ってなくて。」

これは夏休み明けに、1ヶ月にしてはやや伸び過ぎなくらい髪型を変えたとき。



「これからは伸ばすの?切るの?」

「伸ばしたいなーと思ってる!」

伸びる訳はないが、徐々に長いカツラをオーダーして

ロングヘアーを目指していたとき。



周りはきっと知らないと思って、

いや、知らないと信じたくて

こんな当たり前の会話を楽しんでいた私。



本当はみんな、知っていたんだ。


知っていて、知らないふりをしてくれていた。



自毛のふりをしていた自分が

恥ずかしく思えたり、

ちょっとみじめにも思えたりしたが、

それ以上に、このみんなの優しさは

今思い出しても涙が出る。


ハゲを知った人に、色んなところで

わざと聞こえるような嫌味を言われてきたけど、

テニス部にそれをした人はいなかった。



みんな、本当にありがとう。

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