第13話 学校に来なくていいのはお前だ
怒涛の小学校最終学年を終え、
中学は市内にある私立中学へ進学した。
6年2組から同じ学校へ進学した子は
いなかったが、同じ小学校からは
男女数人ずつ、何人かいた。
もともと中学受験を考えたきっかけは、
3年生で母に勧められて受けた模擬試験。
受験塾主催のものだった。
両親が、ハゲ頭の私を特別扱いすることは
これまでの人生一度もなかった。
よく考えれば、知らない人まみれの模擬試験
なんて、クスクス笑われて指さされて
試験どころじゃないんじゃないか?
とか思ってしまいそうだが、
そういう両親のもとで育ったおかげで、
私は外に出ること、人前に出ることを
躊躇わなかった。
きっとその日だって、
知らない誰かにジロジロ見られたり、
笑われたり、指さされたりしたはずだ。
でも、試験を終えた私が母に言ったことは、
「私、ここに通いたい!」
「え?ここは難しいお勉強するところだよ?
遊びに来るところじゃないよ?」
母は気軽に試験だけ受けてみたらいいという
安易な考えで私に勧めていたようだ。
実際、教育ママとはかけ離れたタイプの人。
塾でもハゲ頭にまつわる色々はあったが、
学校での出来事に比べたら
どうでもいいレベルだったはず。
つまり、もう忘れてしまった。
それなりに仲良しの友達も出来ていた。
自分で「行きたい」と言った割に、
そこまで必死になりきれなくて
レベルの高い学校に進学した訳ではなかった。
でも、地元では校風が良くて
先生たちもしっかりしてると評判だった学校だ。
ちなみに親世代が言う「校風が良い」は、
「校則がしっかりあって、変に遊ぶことが 出来ないきちんとした学校」のこと。
私自身、学校でのあれこれに疲弊していて、
受験自体はそんなに頑張れなかったし、
正直もともとは志望度の高い学校
ではなかった。
でも、もう私をいじめてきた人はいないし、
大多数が私のハゲを知らない場所で
ある程度平和に過ごせると思っていた。
でも、現実はそう甘くはなかった。
同学年の男子に、他の小学校ながら
あの戸田と同じ塾出身の奴がいた。
スクールバスの中で、
誰が可愛いとか、モテるのは誰だとか、
何やら女子について話している。
「でもハゲなんでしょ?
顔が悪いとかじゃないんだけど、
ヅラってのは女としてはちょっとなー。」
これを、私と同じ小学校出身の男子2人に
言っている。
私にちょっと聞こえるように、
こちらをチラチラ見ながら、
っていう、私としては慣れた光景だ。
その男子2人は、否定も肯定もせず
やや気まずそうにはぐらかしていた。
「やってくれたな、最低だなこいつら。」
私はその2人が私のハゲをバラしたと
思い込んでいた。
自分がバラした手前、罪悪感も相まって
気まずそうな顔をしているのだと思った。
このときは、両親に相談した。
母は即座に学校に連絡した。
中1当時、私は自分の担任が部活の顧問
でもあった。
その先生が、女云々を語った彼を
呼び出したそうだ。
「もしもお前のやったことで成瀬が深く傷ついて、学校に来られなくなるようなことがあったら、学校に来なくていいのは成瀬じゃなくてお前だ。」
と言ったらしい。
小学校の大原の対応とのあまりの差に
感動すら覚えた。
以降、その嫌がらせはなくなった。
ただ、「女として」という視点での指摘は、
単純にハゲだと笑われた小学校時代とは
また違った爪痕を私の心に残した。
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