第12話 両親の無念
クラスの問題も、東の不登校も、
私への嫌がらせも、
何一つ解決しないまま卒業式を迎えた。
いじめにあった東が、卒業式にも
出られなかったことはとても残念だ。
ただ、転校生で何も知らなかった日置に
私のハゲの話をしたのは東(のはず)だ。
日置は転校してきた当時、
誰かをいじめたりなんてしそうにもない
優しい雰囲気の少年だった。
なんの係か忘れたが、
一緒に何かの係だか委員会だかを
やることになって、
クラス掲示用に撮ったツーショットが
あとから出てきた。
彼の中で何かきっかけがあって
変わってしまったのか、
ただの思春期、反抗期だったのかは
分からない。
よく晴れたある日、
ベランダに東と日置がいた。
東が、窓越しの私のことを
コソコソと日置に耳打ちした。
「え?うそ?そうなの?」
日置の驚いたような顔と
チラッと私の方に配られる目線。
これはもう、なんの話をしたのかは
お察しの通りだ。
クスクスクスっと口元に手をやり、
嘲笑うように私の方をチラッと見た東。
日頃、彼はクラスの中で
ほとんど口を聞かない人だった。
そんな風に笑うんだ、とも思った。
話の全てが聞こえたわけじゃない。
決めつけと言われても仕方がない。
でも、物心ついたときから
ハゲをやってきた私は、
自分の話をされているという勘を
外したことは一度もない。
彼はずっと、
「いじめられたせいで学校に来られなくなった可哀想な被害者」
として、クラスでも、保護者会でも
ずっとずっと庇われた存在だった。
私はいつもそれが悔しかった。
保護者会で、私の両親は
割としっかり意見を述べていたらしい。
基本は母親が参加していたが、
父親も揃って参加したこともあった。
小さい頃からハゲのことで何度となく
嫌な思いをしてきた我が子を見ていたから、
いじめられる側を想う気持ちは
誰よりも強かったはずだ。
涙ぐみながら意見したことも
あったんだとか。
だから、中学に入ってから
「実は私もいじめられていた」
と、全てを話したときは、
両親は私以上に悔しい思いだっただろう。
「他人の子がいじめられていることに
親身になって、真剣に考えて、
お父さんだって涙ぐみながら意見もして、
でもその裏では自分の娘が
ずっといじめられていたなんて…
悔しくて言葉が出ない、馬鹿みたい。」
と母が目を潤ませながら言っていた。
母は真っ直ぐで、
下手な折れ方はしない人だ。
在校中に知っていれば、
担任にも、相手の親にも、
真っ向から挑んだだろう。
それを知っていて、
どこかで大事にしたくなかった私もいた。
ただ単純に心配をかけたくない、
そう思う私もいた。
でも1番はやっぱり、変えようのない事実で
いじめられている自分があまりに惨めで、
それを認めたくなかったのが私だ。
あとから全てを知った母は、
「まだ出来ることがあるかもしれない。」
そう思って、
バケツとたわしと洗剤を持って、
公園の落書きを確認しに行ったそうだ。
もちろん、落書きはもうなかった。
やれることはもうなかった。
そう聞いたときは、
母の無念が伝わってきたのと、
話さなかったことへの申し訳なさで、
「わざわざ見に行ってくれてありがとう。」
は、言いそびれてしまった。
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