第10話 目に涙を溜めて
「ハゲ」
「ハーゲ」
「本当はハゲなんだろ?そうなんだろ?」
「ハゲハゲ、聞こえないふりするなよ。」
「ハゲのうた、歌えよ。」
「おいヅラ、返事しろよ。」
まだまだある。
数え切れないほどある。
こんなことを毎日、登校から下校まで
1日何回言われただろうか?
悔しかった。
何ひとつ言い返せない。
彼らが言ってきたことは、ひとつも嘘がないのだ。
私がハゲなのも、ヅラなのも、全部事実。
「そうだよ。」
と笑顔で返してやればよかったのか?
「うるさい。」
と言い返して喧嘩すればよかったのか?
「違うよ。」
とは言えなかった。
そんな嘘、言ったところで
この嫌がらせが終わる訳がなかった。
それに、小4までの写真を遡れば
私がハゲだという証拠なんていくらでもある。
日置も戸田も巧妙だった。
決してみんながいる前で、
みんなに聞こえるように言うわけではない。
他の人がいないタイミングか、
居ても聞こえないように耳打ちしてくる。
だから、
「そうだよ。」
なんて開き直って認めたら、
逆にみんなの前で大声で言われるんじゃないか、
「こいつハゲって認めたぞー!」
なんて叫ばれるんじゃないかと思って、
開き直って言い返すことすらできなかった。
3歳で取っ組み合いの喧嘩をするような私だ。
本当は言い返して、言い負かして、
大騒ぎでもして先生の前につまみ出して
こっぴどく叱られてほしかった。
でも、担任の大原を信頼出来なかったし、
ハゲという事実を言った奴が怒られて
また意味もなく、悪いとも思っていないのに謝られる
というのも気分が悪い。
泣いてる、とバレないように俯いて
目に涙を溜めて
それが溢れないように必死だった。
一粒でもこぼしたら、止められないと分かっていた。
出来るなら学校にだって行きたくなかった。
行かなければ、そんなこと言われなくて済むはずだ。
でも、紛れもない事実を連呼されて、
何も言い返せなくて、
そのうえ学校に行けなくなるなんて、
悔しすぎた。
クラスは荒れているし、
担任は最低だし、
毎日陰でいじめられて、
女子とは普通に仲良く遊んでいたけれど、
何が楽しくて毎日行ったんだろうか。
いま思い返しても、
楽しい思い出が浮かばない毎日だった。
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