第9話 椅子が飛ぶ教室
荒波はいつから来ていただろうか。
小5の終わりから(メインは小6の1年間)
クラスの特定の男子から、私はいじめにあった。
当時はただひたすら黙って耐えていて、
毎日泣きそうで、目に涙を溜めていた。
一粒でもこぼしたら止まらなくなりそうだった。
とても辛かったから、この期間のことを
全ては思い出せない。
というより、一時期は本当に
記憶喪失を疑うくらいに、
修学旅行がどんなものだったかすら
思い出せなかった時期もあった。
でも今は、この時のことを忘れたくない。
全てを耐え抜き乗り越えた自分を称えたい、
だからどんなことがあったか覚えていたい、
という心情に、いつからか変わった。
そもそも、嵐の土台とも言えるくらい
私のクラスは荒れていた。
原因は、男子生徒らの担任教師への反発。
持ち上がりで2年間変わらなかった女教師は、
わかりやすくえこひいきをする人だった。
えこひいきされていたのは、
ちょっと内気であまり喋らない男子の東くん、
小1〜2年時にもその大原先生という女教師の
クラスだった女子数名。
どちらのえこひいきもわかりやすく、
まずは東くんが男子生徒からいじめられた。
結果、小6の途中で彼は不登校になった。
どのくらい破綻したクラスだったかというと、
ほとんどの男子が担任の言うことを
無視したり、指示に従わないので、
まず授業が成り立たない。
担任からの問いかけはもちろん無視、
勝手に立ち歩いたり、
小学生のレベルではあるが、
いわゆるボイコットだ。
物を投げる奴もいた。
担任に向かって名前のマグネットを投げたり、
1番驚いたのは、
高さ調節のネジがついた重たい椅子を
教室の真ん中で投げた奴がいたこと。
怪我人が出なかったのが、
不幸中の幸いだ。
こんな様子で、
とても担任教師の手に負えないため、
他の教師が空き時間にサポートに来るという、
謎の2名体制の授業も珍しくなかった。
授業が行えないことと、
不登校の生徒がいることについて、
校長や教頭を交えた父母会も何度も開かれた。
当番制で数人の父兄が、授業を見にくるという
体制が取られた時期もあった。
もちろん平和な授業参観なんかではなく、
抑止力としての見張り番。
私にいじめの矛先が向いたのは、
東くんが学校に来なくなってからだ。
いじめていた相手がいなくなったから、
対象がすり替わっただけの話。
つまり、私は同性である女子生徒ではなく、
男子生徒からのいじめを受けた。
東くんをいじめた奴は複数いたが、
髪の毛のことで私をいじめたのは主に2人。
やっていいいじめ、悪いいじめ、などという
線引きは決してなく、
いじめはあってはならないとは思うが、
私のことをハゲというネタで
いじめるのはさすがにダメだ、
と心のどこかで思ったのだろうか、
私へのいじめには参画しなかった奴が何人もいる。
ちなみに、東くんへのいじめに加担していたのは
クラスの男子のほとんど。
いじめを止めれずとも、
そこに加担しない姿勢を貫いたのは
片手で数えられるほどだった。
クラスのほとんどから2人へ。
この人数減は一体何なのか。
そして、その主犯格2人というのは、
どちらも転入生。
1人は小3の時に転入してきた戸田という奴。
もう1人は小5の途中で転入してきた日置という奴。
1年生の頃から私を知っている人は、
情が湧いているのか?
成瀬のハゲには触れてはいけない、という
常識が根付いたのか?
いじめる側が大幅に減った理由は分からないが、
とにかく私はこの2人から
毎日毎日嫌がらせを受けることになる。
そして、学校に来れなくなった東もまた、
私がいじめられる原因を作って学校から去った、
私にとっては相当タチの悪い奴だったのだ。
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