第7話 街中の雑音が消えた日

小学校4年生の終わり、

カツラを手に入れた。



きっかけをくれたのは祖母。

某大手発毛系会社の、

脱毛した子供へのチャリティキャンペーン

の記事を見つけてくれ、

両親が応募したら当選したのだ。

たしか、書面と写真で

脱毛の状況を提出した記憶がある。



これまでにカツラをつけたのは、

7歳の七五三で着物を着た1日だけ。

ショートカットのカツラにかんざしをさした。

その時はもちろん嬉しかったと思うが、

初めての髪の毛がある自分の姿に慣れず、

楽しみきれなかったような。



今回は肩下まであるセミロングヘア。

ピンで止めたり、カチューシャをつけたり

やり方に気をつければ、

ポニーテールやツインテールもできる。

嬉しくて、ヘアアクセサリーを買い漁った。

ウィッグは両面テープで頭に止めるタイプだった。



カツラをつけて街を歩いたら、

世界が変わった。




誰も私の頭に目線をやらない。

すれ違いながら目で終われることもない。

ハゲと笑われることも、

指をさされることもない。

今まで外を歩くとき常にあった雑音が、

全て消えたような静寂を感じた。


同時に、私の心もとても平和だった。



ひとつ、気がかりだったことは、

春休みが明けた新学期、

どんな顔して学校に行ったらいいのか。


みんなどんな反応するかな。

びっくりするかな。

カツラのこと何か聞かれるかな。

色んなことが頭をよぎった。



街中を気持ちよく歩く喜びを

手に入れた代わりに、

旧知の人たちに会うのが

少し怖かった。



それでも、

髪の毛がある(ように見える)自分への喜びと、

毎日のヘアアレンジが楽しくて仕方ない

春休みだった。

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