第4話 人生を彩るハゲの色

私の人生において、

「ハゲ頭で生きてきたこと」は

欠くことの出来ない要素だ。


ただ、見た目の上でも

カツラを着けている今

「実はハゲていて、こんな経験をしてきた」

みたいなことを話すと、大抵驚かれる。

「そんな風には見えない」と。


どうやら

人生イージーモードなタイプに

見えることも、あるらしい。



そもそも、小さい頃から

私は活発で明るい女の子だった。

男の子と取っ組み合いをしたこともあった。

「バカヤロー!」

なんてお互いに叫んで、

「どこでそんな言葉覚えたの…」

と母は恥ずかしかったんだとか。


「莉子ちゃんはどんな子だった?」

の話題で、両親の口から必ず出てきて

聞き手の笑いを誘う定番エピソードだ。



「ハゲ頭で生きてきた」と聞いて

どんなイメージを抱くのか、

これは人それぞれだと思うが、

とにかく「ぱっと見」では

私にそういう空気感はないらしい。


ここで分かるのは、

そう言ってくれた人たちは

みんな心根が優しく、

その事実を聞いただけで

私がどんなことに直面してきたのか

想像してくれる人ということだ。



「あなたにそんなことがあったなんて

全然気付かなかった。」



それでいい。

むしろ、それがいい。

私の人生において、

「ハゲ頭で生きてきたこと」は

たくさんの中の、たった1つの要素なのだ。


学校で友達と遊んだり、

運動会で頑張ったり、

色んな部活をやったり、

受験勉強をしたり、

彼氏と喧嘩したり、

客室乗務員になって、

結婚して、

母親になって…


たくさんの色で溢れた

彩り豊かな人生の中で、

ハゲの色は

ほんの少し長く存在している

たった1つの色に過ぎないはずだ。

今ここでその色が濃淡を繰り返してきた道を

思い返しながら書いている。



「髪の毛がなかったせいで」

「髪の毛のことでいじめられたせいで」

常にこんなフレーズが

前置きになる人生は御免だ。


でもこれは、

何度も何度も人生がこの1つの色に

塗り潰されそうになりながら、

必死に違う色を集めて

今この人生が明るく彩られているから

言えることなのだ。


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