第2話 嘱望されていなかった2人の縫合
筋肉は全ての魔法を遮った。確かにピリッとした痛みがあったが、筋肉は俺を守ってくれたのだ。
そして俺は反撃に出る事を決意した。
まず、電撃を当てた男に拳を突き出す。
「ひっ!スタンパンチ!」
電気を纏ったパンチが俺に迫る。が、俺の拳の方が一手早かった。
「ぐ゛ぶ!」
ピチャァァ...
顔面に撃ち込んだ為か、鼻からありえない量の鼻血が噴出していた。
俺の手は当然、血塗れていた。
「ウォーターブレード!」
水で剣を顕現して、斬りかかる者。呆気なく剣は折られ、腕を捥がれる。
火炎と氷の合技が間髪入れずに俺に迫ったが、そのまま体当たりをして突き飛ばした。
リーダー格の男は魔法を自分に掛けていた。
「チッ、使えねぇやろうどもが!」
彼は眉間に皺を寄せて拳を握った。
「ボコボコになりてぇんだな?」
彼は首をバキッと鳴らして迫る。
「それはこっちの言葉でもあるけど?」
「はッ!いつまで調子こいてんだ?」
俺が煽りを掛けると、彼は余裕の反発を上げた。
「君もいつまで学内で横柄な態度を取るつもりだい?」
「フン!んなもんテメェに関係あるかよ!」
俺が忠告をする。彼はそれを蹴り、殴りかかって来る。なんとなく分かっていた。
「君が黙る気のないなら、“僕”は君を叩き潰すしかないようだな。」
「口調変えるとか演出臭ぇ真似しやがってよォ!…ってかお前自分の事分かってんのか?」
そう、もう俺はこの前死んだのだと何故かこの時自覚してしまった。その瞬間に誰かに魂を食べられたかのように一人称が変わってしまった。自殺して生き残った奴にありがちな演出さ。
しかもそれと同時に容姿も変わったのだ。
細いのか?明らかに身長は変わったし、声が少し高くなった。筋肉も萎んだのかもしれない。最悪だ。好転かと思いきや、悪転ではないか。さらにその後僕の口から出た台詞は、今の脳を通していなかった。
「急展開すぎて、ついて行けてないみたいだ。リモコンで大事な場面をスキップしてしまって、そのままストーリーを垂れ流してしまった人みたいに元の僕の思考は膠着しているみたいだ。ま、何故話せてるかと言うとだ。僕には魂を使って発話する力がある。が、君達みたいに才能に頼っている訳ではない。この元の僕のように努力に頼っているのさ。魂によって憑依が出来るこの世界は、意思が強い者にしか生き残れない。なんでいきなりこんな事を言うか。勘のとてつもなく良い御方には見当付くと思うがここで発表しよう。それは僕が憑依可能という事実に前世で気付き、どうやって憑依をするか綿密に練って見出した答えだからさ。僕は自殺した後いい機会を得たと思った。そこで比較的憑依が簡単そうなF県に忍び込み自殺を考えていた元の僕を見つけて、憑依計画を練った。
そうして思いついた人格乗っ取り作戦は、病院に行った後に医者に憑依して、独自に研究していたマイクロチップを埋め込み、そこで最初にこの姿になった後に出会った人に事情を話すというプログラムを埋め込んだのさ。まぁ全て蛇足なんですけどね。ははは。」
「実はやってみて意外と簡単だったんだよ。まさか姿形が変わってくれるとは思わなかったよ。僕と元の僕を足して2で割ったような見た目にもなってくれたし。まぁ脳が混乱状態になって蛇足が結構好転した事が1番嬉しいけど。」
「あ、君には待たせてしまったようだね。」
リーダーの顔は青ざめていた。いきなりペラペラ訳の分からない事を喋られたからだろう。
「な、なんだよテメェ…」
「さぁ何処からでもかかって来るが良い。」
威圧感を感じたのか、彼は逃げてしまった。
「ねぇ元の僕。君は僕の魂を受け入れてくれるか?僕も同じような経験をしてたから分かるよ?あぁ、別に憑依は僕が初だからね!僕は君の意見を尊重するさ。」
僕はもう頭が回らなかった。生き残る為には受け入れるしかないという錯乱の迷信を突き通してしまった。これからの波乱の展開はこいつのせいなんだ。
「はい。受け入れます。」
「よく言ってくれた!君は逸材だよ。僕には無かった筋肉と君には無かった分析力が有れば能力者なんて敵ではないよ!」
僕は放心状態のまま動きが出来なかった。が、次の瞬間、僕の絶望に明け暮れた感情は希望やら楽観に覆い隠されてしまった。
「クク…僕の望みは叶った!勝利だ!はははははははははっ!」
この後、僕らの運命を変えた人がドアを開ける。
僕らはまだ知る由もなかった。彼が何をもたらし、何を奪うのか。
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