第127話 緋色の邂逅

「ほんま、あんさんには困ったもんやで!」


 図書館からの帰り道。うしろから追いかけてきた黒猫は私の隣までくると、ぐちぐちとうらみ節をぶつけてきた。


「同じ悪の組織の一員としてオレは悲しいで」

「だからごめんってば」

「ったく、今回の怪人もええかんじの仕上がりやったっちゅーのに……」


 そう言うわりにはものすごくあっさりやられてたような。実はすごかったのか? ゼリー怪人。


「しかもハカセまで巻き込んでるやんか。せっかく次の怪人の準備をしようとおもてたのに」

「いいでしょ、教えるって言ってくれたんだから」


 ベルの言うとおり、今日はみっちりハカセ――いやミカさんに勉強を教えてもらった。おかげで私史上最高に集中して勉強できた。時間がたつのを忘れて、気がつけば7時近くになってしまうほどには。

 でも今の時期は日没が遅いから、まだ夜というほどではない。周囲は濃いオレンジにちょっとだけ黒を混ぜたような色に染まっている。


「とにかく、テストが終わるまで戦ったりはナシだから? いい?」

「う、むう……」


 うなりながら押しだまる。怪人をつくれるハカセまで戦線離脱となると、さすがのベルも強行はできないみたいだ。

 よし、これで私も気がねなく勉強に全集中できる。今の私には何ものにも代えがたい使命があるのだ。愛する魔法少女グッズをお母さん魔の手から守るという、重大な使命が。


「それはええけど、なにも休戦協定まで結ぶ必要はないんとちゃうか?」

「どうして?」

「相手は魔法少女やで? オレらが戦えへんのをええことに、不意打ちしてくるかもしれへんやんか」

「いや、それはないでしょ……」


 悪の組織わたしたちじゃないんだからさ。


「わからへんやろ、そんなん。なんであんさんはホワイトリリーのことそこまで信用できるんや?」

「そりゃだって――」


 言いかけて、やめた。魔法少女もテスト勉強に専念してるから、なんて言えるわけない。


カンよ。女の勘ってやつ」

「なんやそれ」

「もういいでしょ。早く帰らないと怒られちゃうから」

「あ、ちょい待ちいな。まだ話は終わってへんで」


 お母さんには図書館を出るときにLINEしておいたけど、あんまり遅いと怒られないとも限らない。せっかくこんな時間まで勉強をがんばったのに怒られたら、やる気スイッチがOFFどころかコンセントごと抜かれてしまう。


 ベルはまだなにか言いたげだけど、ほっといて早く帰ろう。

 そう思って歩くスピードを上げようとしたとき、


「……?」


 数メートルほど前に人影を見つけた。たまらず私は歩くのをやめる。

 なぜって、彼女・・がこちらを向いて立っていたから。


「え……っと」


 誰だろう。

 長く伸びた私の影がちょうど重なるせいで、顔はハッキリとわからない。だけど私よりも低い身長と、ツインテールに結ばれた赤毛のおかげで、少女だということは判別できた。


 どうしたんだろう。もしかして、ベルとの会話を聞かれてて変に思われた、とか?

 もしそうなら面倒めんどうだ。誤魔化ごまかすためにもベルにもふつうの猫になりきってもらわないと――


「へえー、今はその子と仲良くやってるんだー」


 が、私の考えは少女の言葉によってはじけ飛ぶ。それこそ、子どもの好奇心によって割られた風船みたいにあっけなく。


 え……。

 この子、いったい誰?

 私、会ったことがあったっけ?

 仲良くってどういうこと?


 疑問という泡がどんどんわいて、シャボン玉みたいに私を埋めつくす。だけど次の瞬間、彼女は小悪魔・・・のような笑みを浮かべると、シャボン玉を吹き飛ばしたこう言った


「元気そうじゃん。ね? ――――ベル?」

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