第121話 テスト2週間前、打開策は――?

「……はあ」


 今日何度目かわからないため息が、私の口からこぼれ落ちる。

 気がつけばもう6時間目。でも授業はまったく頭に入ってなかった。ほんとなら期末テストに向けて全集中しないといけないのに。

 私の頭をいっぱいいっぱいにしているのは、昨日のお母さんからの宣告せんこく


 さすがに没収はキビしすぎるよ……。


 おこづかい減額もキツいけど、グッズの没収はそれ以上だ。

 ポスターにCD、ブルーレイ。ほかにもいろいろ。これまでコツコツ集めてきた私の宝物たち。私の生活に彩りを与えてくれる、必要不可欠なものだ。水と空気の次に大切と言っても過言ではない。


西村にしむら、西村ー」


 それがない生活なんて……想像しただけで背すじがふるえてくる。それだけはなんとしてもけないといけない。


「おい、西村ー」

「はっ、はい!」

「先週やった小テスト返すから、早くとりにこい」

「す、すみません」


 やば、考えるのに集中しててぜんぜん聞いてなかった。私はあわてて席を立って、先生から答案を受け取る。それを見て、私は6時間目が数学だということに初めて気がついた。


 ……数学はまだマシなんだけどなあ。


 幸いにも返ってきた小テストの結果はそこそこといったところ。本番でもこれくらい解くことができれば、赤点の心配はない。

 だけど1教科だけ赤点を回避したところで意味はないのだ。お母さんから言われた条件は「赤点を1つでもとったら」なんだから。

 国語に英語、それに理科と社会。私には敵が多すぎる。

 あーあ。誰か、私に勉強教えてほしいよお。


「わっとと」


 なんて考えながら歩いていたせいで「はらり」と小テストの紙が私の指から逃げていってしまう。捕まえようとするけど、それはまるで意思を持ったみたいに空中をれていって、


「あ……」


 なんと乃亜のあさんの机に着陸した。


「……」


 机に広がる私の小テスト。必然的に彼女の目線はそれをじっととらえる。それからしばし、目をぱちくり。


「あ、ごめん。はい、ちーちゃん」


 だけどさすがは乃亜さん。クラスの人気者にしてやさしさの化身けしん。すぐさま答案を(ちゃんと裏に向けて)渡してくれる。


「い、いやいやこっちこそ。ごめんね」


 私は顔が熱を持つのを感じながら急いで席へと戻る。うう、よりにもよって見られたのが乃亜さんなんて。恥ずかしい……。

 乃亜さんのことだ。成績もよくて、私のこんな点数とは無縁に違いない。そりゃあビックリして目も丸くなるよ。


 ……乃亜さんに教えてもらったら、私の成績もうなぎのぼりなんだろうなあ。


 ふと思うけど、それは高望みというものだ。きっと乃亜さんと一緒に勉強したいって人は山ほどいる。クラスメイトの陽キャとか陽キャとか陽キャとか。乃亜さんなら気にせず一緒にやろうって誘ってくれるだろうけど、私にはハードルが高すぎる。


 結果、私の悩みが変わることはなく。


「……テスト勉強、どうしよっかなあ」


 今日のため息の回数がまた増えたのだった。



 ――そしてさらに気がつけば放課後。


 今の状況を考えれば、すぐに家に帰って勉強しなきゃいけない……のに、掃除当番に当たっていたせいでまだ学校に残っていた。

 ほんと私ってば間が悪いというか運が悪いというか……。

 だけどそんなネガティブな気持ちは、隣を歩く天使がかき消してくれる。


「このゴミを持っていったら終わりだね」


 天使、もとい乃亜さんが笑う。うーん、美少女はたとえゴミ袋を手にしていても絵になるらしい。


「でもありがとね。最後のゴミ出しにもつきあってもらっちゃって」

「そんな、乃亜さんだけにやらせるわけにはいかないよ。同じ班なんだし、ちゃんと一緒にやらないと」


 申し訳なさそうにしているので私は首をふる。彼女は最初「あとはゴミ出しだけだから私がやっておくよ」なんて言ってくれた。ほかの人たちは「乃亜サンキュー!」と足早あしばやに帰っていったけど、乃亜さんに、魔法少女にゴミの後始末あとしまつを任せるなんて私のポリシーが許さない。

 と、乃亜さんはにんまりとした笑みを向けてきて、


「もー、ちーちゃんってばそんなに私と一緒がいいの?」

「えっ?」

「私のこと好きすぎだよー。照れちゃうなー」

「あ、いやそういうわけじゃ」

「ええー、じゃあ……イヤなの?」

「そっ、そんなことは……ないです……」


 消え入りそうな私の声を聞いて、なにやら満足そうにしている乃亜さん。反対に私は下を向くことしかできない。主に恥ずかしさで。


「そっかー、ちーちゃんは私と一緒でうれしいのかー」

「うう……」


 廊下ろうかを出て、中庭を歩く。ゴミ集積所にゴミ袋を置くころには、私の顔の熱さも引いてくれていた。

 よし、これで当番の仕事は全部終わりっと。


「ねえちーちゃん」


 今度こそ帰ろう。そう思っていると、乃亜さんから声がかかる。なんだろう、まだやり残したことあったかな。


「そんなに私と一緒がいいなら、さ」


 つぶやくような口調。さっきまでとは、少し違う気がする。どうしたんだろう。

 だけどそんな違和感は、彼女の次のセリフで吹き飛んだ。


「テスト勉強も、一緒にやらない?」

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