第3章

第120話 私史上、最大級のピンチ

 私の名前は西村にしむら千秋ちあき

 どこにでもいる普通のJC2年生。いや普通というより地味と言った方がピッタリかもしれない。三つ編みにくせっ毛、それにメガネをかけているから、まさに背景と一体化するモブキャラだ。


 だけどそれは、の姿。私には裏の、もうひとつの顔があるのだ。


 悪の組織の女幹部。


 もちろん望んでその役目にいたわけじゃない。いろいろあったのだ。そう、いろいろ。だって私が大好きなのは魔法少女。その正反対に位置する存在。だけどやめることもできずに、なし崩し的に魔法少女と戦う日々が続いていた。


 そしてついこの間、私は「ボス代理」という新たなポジションになった。いわゆる昇進というやつ。

 言ってしまえば組織のナンバー2、いや、ボスが不在なので実質トップだ。会社で言ったら社長さん。しかも組織に入ってまだ日も浅いっていうのに。


 世のサラリーマンたちがうらやましがりそうなスピード出世。それを果たした、超エリートともいえる私は今――


 正座させられていた。


「……」

「……」


 目の前には、鬼。もちろん比喩ひゆ的表現。まさか一般家庭のリビングに鬼がいるわけがない。

 いや、裏を返せばどの家にもいるのかもしれないけど。


「……千秋。あんたこれどういうこと?」


 鬼は静かに言う。

 その手には、数枚の紙。さらに特徴を付け加えるなら、さくさんの赤い×《バツ》で埋めつくされていて、右上には決して大きくない数字。


 まどろっこしい言い方をやめれば、この間の小テストの結果だった。


「なにか言うことは?」

「えーと……それはどこで入手されたんでしょうか……」

「ベッドの下」

「うぐ」


 見つからないように奥に隠したはずなのに。トレジャーハンターとかに転職した方がいいんじゃないかな。


「前の中間テストも成績よくなかったじゃない。どうするのよ」

「も、もちろん勉強をがんばらせていただく所存しょぞんでございます……」

「それ、中間テストが返ってきたときにも聞いた」


 私の返答はノータイムで封殺ふうさつされる。


「今のうちから勉強についていけなくなると、これからが大変なのよ」

「わかってるよ」

「あんたそう言って1年生のときも勉強してこなかったじゃない」

「だ、だいじょうぶだって。これからちゃんと勉強するから」

「ほんとに?」

「うん。するする」


 私がぶんぶんとうなずくと、鬼、もといお母さんはじっとと私を見下ろして、


「……わかったわ。あんたの言葉、信じてあげる」

「ほんと?」

「ええ。その代わり期末テストでひとつでも赤点とったら、おこづかいを減らすから」

「えっ」


 ちょっと待って。おこづかい減額だって?

 私が戸惑とまどっていると、お母さんはなにやら「それだけじゃぬるいわね……」なんてブツブツとつぶやいている。え、ぬるい? じゅうぶんキツくないですか?


 そして直後、お母さんは口を開く。その頭に「にょきり」とツノが生えたのがハッキリと見えた。


「あんたの魔法少女グッズ、没収ぼっしゅうするから」

「えっ……」


 えええええええええええええええええええええ!!??

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