幕間

とある夜、とあるビルの屋上で

「ふーん……」


 夜風が吹き抜けるビルの屋上。足をプラプラさせながら座る少女は、スマホの画面をながめていた。


神宮寺じんぐうじレオン、活動再開かー。なるほどねー」


 無人の屋上で、少女はひとりつぶやく。ほかには誰もいない。それも当然、屋上へのドアには鍵がかかっているのだから。だから大人はもちろんのこと、子どもがこんな場所でのんびり座っていられるはずはない。

 ――それこそ、非日常的な力でも使わないことには。


「お待たせ」


 声とともに、暗闇から1匹の猫が現れる。白、茶色、黒が入り混じった三毛猫だ。


「言われたとおり、見てきた」

「サンキュー、ミケ・・。それで、どだった?」


 少女が訊くと、ミケと呼ばれた猫は抑揚よくようのない声で答える。


「薄くはなってたけど、たしかに、痕跡こんせきが残ってた。戦闘があったのは、間違いない」

「やっぱりねー」


 言って、少女は見下ろす。彼女の視線の先には大通り。

 そこは数日前、魔法少女と怪人たちが戦いをくり広げた場所だった。


 再び夜風が舞う。ツインテールに結んだ少女の赤毛が流れ星のように夜の闇の中で揺れる。


「それで、どうする、の?」


 三毛猫が問いかける。すると少女は「にしし」と白い歯を見せて笑って、


「そんなの決まってんじゃん。いよっと」


 少女は立ち上がる。チェックのミニスカートが風で大きくたなびいているけど、気にする素振そぶりは一切ない。


「まずはアイサツっしょ」

「そう、だね。あいさつは大事」

「そうっしょ?」


 大通りではたくさんの人が思い思いの方向に歩いている。見上げた先に少女がいるなんて想像すらせずに。現れては、消えていく。

 そして少女のウキウキしたつぶやきも、夜の中に溶けていく。


「久しぶりに会うの、めっちゃ楽しみー。――ね、ベル?」

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