第116話 正答率は――

「この影の中から本物の私を当てることができれば、君の勝ちにしよう」

「え、いいの?」


「……」


 思わず訊き返した私の声に、ボスは反応しない。あれ、聞こえてなかったのかな。


「ほんとに、私が当てるだけでいいの?」


 念を押すようにもう一度訊くと、ボスは「ゴ、ゴホン」とせきばらいをする。


「もちろんだとも」

「さっきホワイトリリーを相手にしてたときみたいに、認識をずらしたりはしない?」

「ああ、約束しよう」


 影はうなずくように小さく揺れると、まるで自分が本物だと言わんばかりに口々にしゃべりだした。


「これだけの数がいるのだ。その技を使う必要はないだろう」

「だから心配することはない。本物の私はこの中に存在する」

「しかしわかっていると思うが、はずした瞬間、君は終わる」

「私の影に、絶望という深い闇に飲みこまれることになる」

「さあ、どれが本物の私か、当てることができるかな――」


「あなたが本物、よね?」


 挑発ちょうはつめいたセリフを言い終える前。私は1体の影の前に行って、そう言った。


「ねえ、あなたが本物なんでしょ?」

「なっ……!」


 ボスが声をつまらせる。だけどすぐにさっきまでの落ち着きを取り戻して笑いだして、



「くくく……君はかなり運がいいようだな。正解だよ」


 無数にあった影は霧が晴れるように消え、私が本物だと言った1体だけが残る。


「じゃあ、私の勝ち?」

「――いや、まだだな」


 ボスは否定する。そして再び「無限の幻影インフィニティ・シャドウ」と分身を発生させた。


「せっかくだ。もう一度当ててもらおう」

「そんな……!」


 私が反応するよりも早く異を唱えたのはホワイトリリー。


「当てれば勝ちだって、あなた言ったじゃない!」

「なに、まぐれということも考えられるからな」


 しかしボスはまったく意に介する様子はなく、私との会話に戻る。


「あてずっぽうで勝利など、君も私も望んではいない」


 私の右隣に現れた影が言う。


「それに、本当にわかって当てたというのなら一度も二度も変わらないだろう?」


 今度は左隣の影が。


「まあ、そんなことができれば、の話だがな――」

「あなたでしょ?」


 私は振り向いて、背後にいた影に問う。リプレイのように、ボスの声を遮って。

 だけど、今度は言い切った。


「本物はあなたよ」

「な……に……?」


 瞬間、無数の影は弾けて消える。残ったのは、本物のボスだけ。


「す、すごい……」


 ホワイトリリーが驚きの声を上げる。それはボスも同じで声には戸惑いの色があった。


「信じられん……。私の無限の幻影インフィニティ・シャドウが見破られただと……?」

「これで、私の勝ちね」


 一歩、ボスに近づいて宣言する。


「もう1回、やる?」

「いや、もう十分だ」

「じゃあ、私の勝ちってことでいいわね」

「……仕方あるまい」


 小さなつぶやきが返ってくる――直後。


「あぶないっ」


 ブワッ!!


 ホワイトリリーの叫びにと重なる形で、ボスの身体を形成する影が一瞬にして広がる。かと思えば。

 気がついたときには私の身体は、真っ黒な影に飲みこまれていた。

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