第115話 チャンス

「はあ……はあ……はあ……」


 息があがってきて、たまらず私はムチを振るう手を止める。

 だけど周りには――まだ数えきれないほどの影がいた。


「だから言っただろう。君がいくらがんばったところで、私の力――絶望の力の前では無力だと」


 ぐるりと私たちを囲う影の1体は言う。


「私の絶望は無限。つまりは生まれる影も無限ということ。君の力もなかなかのものだが、持久戦になれば私にがある。まあそれは、相手がホワイトリリーでも言えることだがな」

「く……」


 そっか、もともとボスはホワイトリリーと戦うことを想定して長期戦に対応した技を用意してたんだ。なら、急ごしらえでエネルギーを集めている状態の私に、勝ち目なんてあるわけない。

 正面から戦ったら、絶対に勝てない。なにかいい方法は――そうそう浮かんではこない。いくらプリピュアをすみずみまで見ていても、現実はアニメみたいに都合よくはないんだ。


 せめて力のぶつかり合いのガチンコ勝負じゃなかったら……なんてことを考えていると、ボスはまたしてもリレーで言葉を放ってくる。


「とはいえ、ここまでねばるのは予想外だったよ」

「やはり君はここで失うにはしい人材だ」

「劣情というマイナス感情エネルギーを用いているのも興味深い」


 バトンタッチし、私の目の前にいる影までやってくると、


「もう一度問おう。諦めて、私とともに絶望の世界を築き上げないか?」


 再び、ボスは提案をしてきた。


「君は素質そしつがある。君ならばもっと多くのマイナス感情エネルギーをかてとすることができる。どうだ、世界を闇に染めないか――」

「いいえ」


 だけど、もう何度目かわからないけど、私は首を振る。


「私は……戦うわ」


 私は、私の決めたことを曲げるつもりはない。

 それは、たとえ誰に言うことはなくても、ずっと魔法少女のことを好きでい続けるのと同じこと。


「私は世界を絶望だけになんて……したくはない」


 みんなのためにも、そして、ボスのためにも。


「……そうか」


 ボスから「ふ」と笑いにも似た吐息が聞こえる。


「……そうか。ならば君のその心意気に免じて、ひとつチャンスをやろう」

「チャンス?」

「ああ。このチャンスをものにすればこの勝負、君の勝ちでかまわない」

「え……」


 なんだって? 私の勝ちになる?

 だけど問題は、


「そのチャンスっていうのは?」

「なに、心配することはない。とてもシンプルだよ」


 ボスの影がゆらりと揺れる。そしてそれはほかの影たちにも波のように伝わって、


「この中から……本物の私を当ててみたまえ」


 そんなことを言ってきた。


「ここにいる影の中から本物の私を見破ることができれば、君の勝ちということにしよう」

「ただし、挑戦できるのは1度きりだ」

「1回のチャンスで当てることができなければ、君はホワイトリリーとともに影に飲みこまれることになる」

「……どうだね?」


 と、ホワイトリリーがその提案に真っ先に反応する。


「む、無理よ。こんなにいる中から本体を当てるなんて」


 たしかにボスが選択肢として提示してきている影の数は、まさに無数。単純な確率だと何パーセントかわからない。


「私のことはいいから降伏しなさい。こんなのチャンスでもなんでもないわ」

「君には訊いていない。私は彼女と話しているのだ」


 どうする、とボスは重ねて私に問いかけてくる。

 その言葉に、私は思わずこう答えた。


「え、いいの?」

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