第113話 下剋上

「私からボスの座を奪う、だと?」


 ボスは私の言葉を反芻はんすうするように言う。


「くくく……おもしろい。下剋上げこくじょう、ということか」


 笑い声に呼応して黒い影が揺れる。その間に、隣のホワイトリリーはよろよろと立ち上がっていた。


「だが、果たしてそれは達成できるのか? 私の実力は、ホワイトリリーとの戦いを見ていたから十分理解できているだろう?」

「もちろん、わかってるわ」


 あのホワイトリリーがあらゆる技を駆使くししても、エリーさん秘蔵のエネルギーを使ってもまったくダメージを与えられない相手。私なんかが到底とうていかなう相手じゃない。

 でもそれは、今の・・私なら、だ。


「えいっ」


 そんなかけ声とともに、私はマントを思い切り開く。

 衆目しゅうもくにさらされるのは毎度おなじみ、黒のセクシービキニ。それ以外は、ぜんぶ肌色。


 途端に遠巻きの人だかりからは「ざわ……ざわ……」という声と視線が届いてくる。く……そりゃみんな見るよね、マントの下がこんなだったら。

 まあ、前に牛丼怪人のときにやったことがあるから慣れたものよ――ってそんなわけないでしょ! こんなの何回やっても慣れないし、慣れたくない。今だって恥ずかしくて逃げだしたい。

 でも、そうはいかない。世界を絶望で満たすのを止めるために……私がやるって決めたんだから。


「むおっ!」

「こ、これはなんとあられもない姿!」

「ダメですぞ。われわれには電車が、電車がああ」


 私が決死の思いでマントを広げていると、距離をとっていた鉄オタ3人組もチラチラ見ながら、三者三様のコメント。でもなんで頭を抱えて苦悩してるんだろ。


「わ……」


 追い打ちをかけるように聞こえてきたのは、隣からの小さな声だった。ホワイトリリーが口を少し開けて、顔を赤くしながらじっと私の姿を見ていたのだ。


「すごい……」


 やめて! そんなにまじまじと見ないで!

 ていうかすごいってなに!?


 すぐさまマントですっぽり身体をおおいたくなるけど、必死にガマン。

 でもその甲斐かいあってか、私の身体にみるみるうちにエネルギーが集まっていくのがわかる。マイナス感情とは少し違う、ちょっぴりエッチな気持ちによるエネルギー。


「ほう……」


 ボスは感心した声とともに、私の様子を見る。


「話には聞いていたが、それが君のエネルギーの集め方か。随分とユニークだね」

「私だってやりたくてやってるわけじゃないんだから!」


 こんなの進んでやるなんて、痴女ちじょじゃないんだから。ボスの野望を阻止そしするために仕方なく、ほんっっっとうにむ無くしてるだけなんだから!


「でもこれで……あなたと戦うには十分よ」


 私は黒のムチをかまえ、ボスに相対あいたいする。さっきホワイトリリーを助けるために使ったときよりも速く、そして力強く動かせそうな感覚。これならボスがどんな攻撃をしてきてもはじき返すくらいの威力は出せそうだ。


「そのようだな」


 しならせるムチを注視して言う。それは標的をホワイトリリーから私に完全に移したことを意味していた。


「ならば私も、本気を出すとしよう」


 すると、ボスを形づくるシルエットの影が濃くなった。かと思えば、さっきホワイトリリーを飲みこもうとしたときみたいに、影がボスの周囲の地面に広がっていく。

 できあがったのは、半径10メートルほどの黒い影の円。そして、


「――無限の幻影インフィニティ・シャドウ


 その影から、ボスと同じ真っ黒なシルエットが無数に生まれてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る