第111話 独白 ~Side BOSS~

 本音を言えば少しだけ、まだ期待が残っていた。

 魔法少女かのじょなら、僕を見つけてくれるんじゃないか、と。


 実際に戦って、力をぶつけあって。そうすれば意外とあっさりと、僕の技を見破ってくるかもしれない。幼いころに憧れた魔法少女なら、どんなに強い敵であろうと、絶体絶命のピンチであろうと、最後には勝つ。

 ボスというシルエットをはがして、人気俳優という輪郭りんかくを取っぱらって、神宮寺じんぐうじレオンというひとりの人間にしてくれるんじゃないか。彼女ならもしかしたら――


 でもやっぱりダメだった。


「くっ……」


 眼前には、苦悶くもんの表情を浮かべながら徐々に僕の影に沈んでいく魔法少女の姿。

 現実はアニメのようにうまくいかない。夢や希望にあふれていたりはしない。ならばいっそ、みんな平等に絶望している方がいい。


 さあ、最後だ。

 魔法少女をたおして、世界を絶望で満たそう。


 そう思って僕は影から右腕を出して、上げる。


 この腕を下ろせば、魔法少女は完全に闇に飲みこまれる。最後の仕上げ。


「……」


 見上げれば、雲間からのぞく太陽と腕が重なっている。それはまるで希望に向かってもがいているように。

 ――いいや、もういい。考えたところで


「さらばだ。魔法少女ホワイトリリー」


 そしてようこそ、絶望にあふれた世界。


 心の中でそう言って、腕を振り下ろそうとした瞬間。


「――――」


 僕の腕の動きが、止まる。僕は再び空を、ちらつく太陽を見上げる。

 そこには。


 1本の細くてしなやかな、黒いなにか・・・が、僕の腕に巻きついていた。

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