第110話 決着?

「ホワイトスター!」


 ホワイトリリーの声とともに放たれた光が、ボスを包み込んだ羽ごとつらぬく。

 同時に、ぶわっと舞いあがる無数の羽。それこそ天使が羽ばたいたみたいに、周囲は真っ白に埋めつくされた。


「ボス……」

「むむむ……」


 ベルもハカセも、そして私も、白一色の光景をじっと見つめる。

 ホワイトリリーも同じように、その場に立ったまま。ビームを放つために掲げていたステッキをおろした。


「はあっ……はあっ……」


 いや違う。ホワイトリリーは立っているのがやっとなんだ。さっきエリーさんから受け取ったエネルギーを攻撃に使って、体力は本当に底をついている。


「これで決着……よ……」


 小さくつぶやく彼女の言葉は、どこか願望が混ざっているようにも聞こえた。この渾身こんしんの一撃で戦いが終わってくれ、という。


 そうこうしているうちに、羽が1枚、また1枚と地面に落ちていって消えていく。舞い落ちる雪がんでいって、視界がだんだんと戻ってくる。

 やがてすべて消え去る。そして全員が目を向ける。視線が交差する場所、ホワイトリリーがビームをったその場所には――


 誰の姿もなかった。


「え……」

「そんな……っ」


 言葉をつまらせるホワイトリリーとエリーさん。ふたりとも信じられないといった表情だ。それは私だって例外じゃない。


「そんな、たしかに私の攻撃は当たったはず――」

「悲しいな」


 と、ホワイトリリーのセリフにかぶせるように声が聞こえる。

 声は、少し離れた街路樹のそばからだった。そこにボスはいた。木陰こかげと同化するような真っ黒のシルエットで。


「い、いつの間に……」

「なにを言う。私ははじめからずっとここにいた」

「え……?」


 つまり……どういうこと? 最初からそこにいたってことは、ホワイトリリーが今まで戦っていたのはいったい……


「悲しいな」


 驚く私たちをよそに、ボスはもう一度、同じ言葉を口にする。


「少し認識をずらしただけだというのに、君はまったく気づく様子もなかった」

「認識をずらす、ですって?」


 ホワイトリリーはまだ状況をうまく飲みこめていないみたいだけど、私にはわかった。認識変換。ボスが何度も使っていた能力。それこそ、ボスの部屋に乃亜のあさんがとふたりであがったときみたいに。

 あのときはボスのことを私の親戚だと思わされていた。そして今は、自分がいる場所すら変換して、目の前や背後にいると思わされてたんだ。


滑稽こっけいだったよ。なにもないところを必死に攻撃する君の姿は」

「うそ……」

「この私でも気づかないなんて……」


 変身しているホワイトリリーでも、エリーさんにもまったく気づかせないなんて。きっと、ボスの力が――マイナス感情エネルギーが強大すぎるってことなんだろう。ホワイトリリーじゃ太刀打たちうちできないほどに。


「……結局、君もその程度しか見てはいない、ということだ」


 ため息まじりにボスが言う。そこ声音には、さっきボス自身が言ったように「悲しみ」が含まれているように聞こえた。


「誰も私のことを見つけることなど……できはしないのだ」


 そして、ゆっくりとホワイトリリーの方へと近づいていく。今度こそ本物のボスが。


「ホワイトリリー! ここは退くしかないわ!」

「そ、そうね……っっ!」


 エリーさんに言われてボスから離れようとする――けど、ホワイトリリーはその場にひざからくずれ落ちてしまった。


「ごめんなさい、エリー……もう動けない、みたい……」


 正真正銘のスタミナ切れ。変身が解けないようにしているのがやっとみたいだ。


「エリー、あなただけでも……逃げて……」

「そんなことできないわ! さあ立って! 早く!」

「もう遅い」


 必死にスカートを引っ張るけどホワイトリリーの身体はこれっぽっちも動かない。そして無情にも、ボスは彼女の目の前までやってきた。


「――せめてもの情けだ。世界と同じように、君も絶望に飲みこんでやろう」


 瞬間、ボスを形づくっていた黒い影が広がる。それはホワイトリリーがひざ立ちになっている地面も真っ黒に染めて。


 そして、ゆっくりとホワイトリリーの身体を飲みこみはじめた。


「くっ……」


 まるで底なし沼のように、ずずず、と足から順に身体が沈んでいく。だけど体力が残っていないから、抵抗する様子はまったくない。


 足、腰、お腹、とみるみるうちに影に飲みこまれていく。そんな様子を、ボスはじっと見下ろしている。


「残念だ。そして――


 さらばだ。魔法少女ホワイトリリー」

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