第109話 当たらない攻撃

 ホワイトリリーの放ったビームはボスに直撃――とはならなかった。

 その直前で、ボスの身体を形成している黒い影が跡形もなく消え失せたから。


「えっ?」


 目を見開くホワイトリリー。ほどなくしてビームは細くなっていき、なにもないところで空気の中に溶けていく。


「いったいなにが……」


 私も目をぱちくりさせながらその光景を見る。たしかにホワイトスターは当たる軌道だったはず……ボスが直前で避けたってこと?


「どこを狙っている……?」


 同じように驚いている様子のホワイトリリーの背後・・から声がかかる。そこには、さっきまで彼女の前にいたはずの真っ黒なシルエットがあった。


「私はここだ」

「……ホワイトスター!」


 すぐさま振り向いて再び攻撃。さっきの再現をするように光の直線はボスめがけて飛んでいく――が、


「無駄だ」


 またしても当たろうかという寸前で、ボスの姿は霧散むさんする。


「また消えた!?」

「ホワイトリリー、こっちよ!」


 エリーさんが白いもふもふの前脚を向ける。今度はホワイトリリーの右方向に姿を現していた。


「分身……いえ、それとも幻?」

「さて、どうだろう。なんであろうと攻撃が当たらなければ同じことだ」


 答えるボスの声は落ち着き払っている。今までの怪人なら有利な状況にスキを見せることもあったけど、そんな様子はまったく感じられない。


「潔く負けを認めたまえ。君では私には勝てない」

「そんなことないわ! まだこれからよ! ――シャイニングシャワー!」


 言葉と同時に、まばゆい光がホワイトリリーの前、横、後ろ――360度に広がる。これならどこに避けても、少なからず攻撃は当たる。一撃でたおすことはできなくても、ダメージは与えられる。ホワイトリリーもそう考えてこの技を選んだんだろう。


「だから無駄だと言っているだろう」


 だけど、そんな期待はあっさりと裏切られてしまった。

 ホワイトリリーの周囲に広がったシャイニングシャワーの光が消えると、そこには彼女以外に誰の姿もなくて。

 黒い影は、光の届かない離れた場所にあった。


「そんな」


 さっきまでホワイトリリーの近くにいたはずなのに。何メートルも一瞬で移動したの?


「いろいろと技があるのはさすがだ。だが当たらなければ意味がない。それで、次はどうするかね?」

「くっ……」


 ゆっくりと近づいていくボス。その足取りは悠々ゆうゆうとしている。反対に、ホワイトリリーの息づかいは乱れていた。


「はあ……はあ……」

「どうやら力も残り少ないようだな。無理もない、怪人をたおす程度に必死になっていたのだからな」


 そのとおりだ。もともと持久力は高くないのに、電車怪人との戦いでも攻撃を何発もしていた。もう限界に近いんだろう。


 ボスが再びホワイトリリーの近くまでやってくると、影のシルエットがざわざわと動きはじめる。ついにボスの方から攻撃するつもりなんだ。


「さて、そろそろ終わりにするとしよう」


 抑揚よくようのない声で、そしてどこか少し残念そうにも聞こえる声で言う。そんな言葉を受けて、ホワイトリリーは息を整えたあと、


「エリー」


 隣にいる相棒の白猫の名前を呼んだ。


「お願い」

「ええ」


 たったひと言だけど、エリーさんはすべてを悟ったようにうなずく。そして、


「私が蓄えているプラス感情エネルギーをぜんぶ、あたなに注入するわ」


 瞬間、エリーさんとホワイトリリーが光の糸のようなものでつながる。かと思えばみるみるうちに、ホワイトリリーの身体が光り輝いていった。


「これは……」

「残念だったわね。私の、私たちの最後の力は、まだ残ってるわ」


 動揺したのか影の動きを止めるボスにホワイトリリーは答える。


「油断したわね。分身かなにかはわからないけど、わざわざ私に近づいてきて攻撃しようとしてるってことは……今のあなたは本人で間違いないってことよね」


 そう口にすると、素早くステッキをボスに向けて、


「ホワイトスター!」


 至近距離でビームを放った。


「何度やっても同じだ」


 しかしボスも攻撃がくることを予見よけんしていたんだろう、さっきの再現のように当たる直前にふわりと消える。そして同様に彼女のうしろに現れて――


「今よ! フェザーホールド!」


 背中の羽がばさりと広がると、一斉に背後の影を包みだす。それこそ、シルエットの黒が見えなくなるくらいに。

 そうか。ホワイトリリーは最初からこれを狙ってたんだ。同じように背後に姿を現すことにけて、最後の力で二段構えの作戦を立てたんだ。


「あなたの言うとおり、そろそろ終わりにしましょう」


 数えきれないくらいの羽でおおわれた真っ白な塊に告げる。それから「ふう」とひとつ息をはいてから、


「ホワイトスター!」


 光の直線が、羽で包まれた中心をつらぬいた。

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