第108話 決戦、第2部

 ホワイトリリーの前に現れた、真っ黒なシルエット。

 見覚えのある私ならそれがかわかるけど、初めて目にする人は不気味な影が浮かんでいるようにしか見えないだろう。


「あなたが……悪の組織のボスね」


 だけど、ホワイトリリーは迷う様子もなくその正体を見破る。


「そう、この私が悪の組織のボスだ」


 そしてボスも、隠すことなく答えた。


 ついに相対あいたいしたふたり。ここからいったいどうなるんだろう。そんなことを考えながら、私は固唾かたずをのんで見守る。


「あの怪人はなかなかの仕上がりだったが……やはりダメだったようだな」


 さすがは魔法少女だ、と皮肉っぽく言う。きっとホワイトリリーが苦戦しながらたおすのを、近くで見ていたんだろう。


「さて」


 ボスは区切ると、少しだけホワイトリリーに近づく。足音はまったくしなかった。


「これで君の勝利――我々の敗けで戦いは終わり……いつもならそうなるところだろうが、今日はそうはいかない」

「……決戦。あなたはさっき、そう言ったわね」

「そうだ。今日こそ我々と君との戦いに決着をつけようではないか」

「だからあなたが出てきたってことね。でもその前に、ひとつ教えなさい」

「なんだね?」

「あなたの目的はなんなの?」


 ホワイトリリーが訊く。怪人がマイナス感情エネルギーを得るために暴れて人々を困らせていることは彼女もわかっているだろう。だけどその奥にある理由はなんなのだと、問うているのだ。


 すると、ボスはくぐもった声で「くくく……」と笑い始めた。


「目的? そんなものは決まっている。


 ――世界を絶望で満たすことだ」


「絶望?」

「ああ。そうすれば、この世界は平等になるだろう。みな等しく絶望を抱えるのだからな」

「そ、そんなこと」

「させないわ!」


 そんな声がふたりの会話を中断させる。声のした方、ホワイトリリーの足元を見ると、かたわらに小さな白いもふもふの姿があった。


「エリー!」

「遅くなってごめんなさい」


 綿のような毛におおわれた白猫――ホワイトリリーの相棒であるエリーさんは長いヒゲをひくひくとさせて、


「でも驚いたわ。まさかボスご本人が登場するなんて」

「それほど向こうも今日は本気、ってことみたい」

「そうね。私もできる限りのサポートはするわ」


 いつもとは異なる場の雰囲気に、エリーさんの声もこわばっている。


「これで役者は全員そろったな」


 ボスが言う。一瞬、私の方を見たような気がした。


「――では、始めるとしようか」


 そして、決戦の開始を宣言した。


「ホワイトリリー、疲れてるところ悪いけど、頼んだわよ」

「任せて」


 と、先手必勝とばかりにホワイトリリーはステッキをかまえる。


「相手が誰であろうと……私はみんなの平和を守るために戦うだけよ!」


 力強い言葉とともに、ステッキの先端に集中させたエネルギーを一気に放った。


「ホワイトスター!」


 ぎゅん! と光がまっすぐにボスの方へと飛ぶ。


「なっ、さっきよりも速いで!」


 隣でベルが声を上げる。彼の言うとおり、電車怪人をたおしたときよりも速度が上がっている。

 いくらボスでもこれは避けられない。まさか……いきなり決着がつくの――


「甘い」


 が、しかし。

 ホワイトリリーの攻撃が当たろうかという寸前。小さく、そして冷えた言葉が聞こえて。


 直後、シルエットがふわりと消えた。

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