第107話 真打ち
ホワイトリリーの言葉を、怪人は高笑いで
「新しい力? 今さらそんなこと言って強がってもムダだガタ」
「強がりなんかじゃないわ。それを今から証明してあげる」
「ガタタ! そこまで言うなら見せてみるんだガタ!」
言うと、怪人はぐっと前傾姿勢をとる。
「……もちろん、お前が立っていられたらの話だがな、ガタッ!」
そして、再びホワイトリリーを囲うように周回しはじめた。
「必殺! ノンストップ通勤快速!!」
ぐるぐるまわって、またしても残像が見えるくらいに高速で移動している。いや、さっきよりも分身がたくさんいるような気がする。っていうことは、もっと速くなってる?
まずい。きっと怪人はまたホワイトリリーのスキをついて攻撃をしかけてくる。しかもスピードが上がってるんだ、今度は直撃してしまうかもしれない。
「ガタタタッ! 今度は環状線の気分だガタ!」
「くっ……」
「ガタタタ……わかるぞガタ。お前は俺の動きを追えていないガタ。新しい力だかなんだか知らないが、敵が見えていなければ意味ないガタ」
これじゃあ攻撃もできないし。でも防御も難しい。
いったい、どうするつもりなんだろう――
「今だガタ!」
ようやく酔いが落ち着いてきたかな、そう思った瞬間。電車怪人はホワイトリリーの背後から一直線に突進していた。
まさに一瞬生まれたスキを逃さない、完ぺきなタイミング。ホワイトリリーも反応できていないのか、背中を向けたままだ。
こんなの、避けられるわけがない!
「あっ、あぶな――」
手遅れなのはわかっているけど、私は思わず声を上げる。ダメだ、どうしよう――
「フェザーホールド!!」
しかし。私の声は
と同時に、彼女の背中の羽が、ばさりとはばたいた。
「なっ、なんだガタ!?」
いきなり自分の前に展開された羽に驚いて、怪人が体当たりを止めた――直後、羽はなんと1枚ずつに分かれて、怪人を包みこんでいったのだ。
「あれは……」
「ガタッ! うっとおしいガタ! 離れろガタ!」
身体についた羽を取ろうとするけど、ふわふわしているせいかうまく取れないでいる。しかもそれが何十枚もあるのだ。またたく間に怪人の身体は車両が見えなくなるくらい真っ白になる。
「う、動けないガタ!」
当然、怪人はその場から身動きがとれなくなる。
「お前、なにをしたんだガタ!」
「言ったでしょ、新しい力って」
もこもこの羽にすっかり隠れてしまった怪人に対して、ホワイトリリーは答える。
「これが私の新しい技『フェザーホールド』よ」
「ガタ……」
「あなたが背後から攻撃をしかけてくることくらい、一度目でだいたい想像はついていたわ」
ってことはあえて最初は攻撃を受けて、どこから来るか見極めてたんだ。
「すごい……」
「ぐぬぬ、ホワイトリリー。くやしいがさすがや」
足元でベルも「ぐう」とのどを鳴らしている。
「ガタタタ」
が、電車怪人はまだ余裕のある笑い方をしていた。
「だがお前の攻撃では俺をたおせないことはわかっているだろガタ?」
そうだ。怪人の言うとおり。みんなの声援で威力の上がったホワイトスターでも、決定打を与えることはできていない。つまり、たおす
「ええ、そうね」
ホワイトリリーは
「ガタタ。だろう? こんな小細工をしたところでムダなんだガタ――」
「でもそれは、正面からの話、でしょ?」
続けて、こう言った。
「あなたの弱点――それは、横からの攻撃よ。違うかしら?」
「お、お前なにをデタラメなことを」
「あなたは私の攻撃をいつも正面で受けていた。それってつまり、正面で受けないといけない理由があるから……そうでしょ?」
「……」
「……」
両者の間を、沈黙が流れていく。というより、気まずい空気みたいなものが。
そして、ようやく怪人が言葉を発したかと思えば、
「な……」
「な?」
「なーんのことだかわからないガター」
今までの威勢のいいセリフはどこへやら、完全棒読みだった。
「俺の身体は横から攻撃されてもぜーんぜんへっちゃらだガター」
「そう……」
「そ、そうだガター。だからやめておくんだガター」
「じゃあ試しにやってみるわね」
「ガッ、ガタッ!?」
あわてふためく怪人。でもフェザーホールドで動けるはずもなく。その間に、ホワイトリリーはステッキにエネルギーをためていく。
「や、やめろガタ。話し合おうガタ。そうだ、満員電車のよさについて語り合わないかガタ?」
「いいえ、お断りよ」
「な、なら通勤快速のすばらしさを教えてやるから少し待つんだガタ――」
「ホワイトスター!」
「ガッタアアァァ――ッ!!」
ちゅどーん!!
聞こえてくるおきまりの効果音と、もくもくとした煙。それが意味するのは、怪人の敗北。
「――ふう」
息を吐くホワイトリリー。私も心の中で
よかったあ。正直、けっこうあぶなかったような気がする。でも私たちの応援も少しは力になってた、ってことだよね。
なにはともあれ、これでホワイトリリーの勝利――
「――なかなかいい戦いだった」
突如、そんな声が周囲に響いた。まるで頭の中に直接流れてくるような声だった。
「だっ、誰?」
警戒するホワイトリリー。
すると直後、彼女の前に真っ黒なシルエットが浮かび上がる。
太陽の光さえ吸い込んでしまいそうな、黒。
そのシルエットを、私は見たことがある。私だけじゃない。ベルも、ハカセも。
「怪人との戦い、勝利おめでとう。ホワイトリリー」
「――ここからが本当の決戦だ」
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