第106話 応援

「がんばって! ホワイトリリー!」


 私の声が届くと、怪人は動きを思わず止める。そしてホワイトリリーが目をまんまるにしてこっちを見ていた。


「ちーちゃ……」

「負けないで! 私、応援してるから!」


 もう一度、エールを送る。


「ガタッ! そんなちっぽけな声援でなんになるガターッ!」

「くっ、ホワイトスター!」


 ギリギリギリッ!! とすぐさま怪人と体当たりとビームが激突する。だけどホワイトリリーが押され気味なのは変わらない。


「なっ、あんさん! 手出しはアカンって言うたやんか!」

「だから口出ししてるだけよ。変身してホワイトリリーを助けたりしてないじゃない。文句ある?」

「いや、それはまあそうやけど……」


 ベルがぐうと押し黙る。ってここで言い争ってる場合じゃない。今はひとりでも多く彼女の味方になってもらわないと。

 みんなほとんど逃げちゃってるし、残ってるのは……ああもうぜいたく言ってられない!


「ほら! あなたたちも応援して!」


 同じように遠巻きに戦いを見守っていた鉄オタ3人組に声援を送るよう促す。


「え? どっちの方でありますか?」

「もちろん魔法少女の方に決まってるでしょ!」

「しかし我々は電車を愛する人種でして」

「つべこべ言わないの! 早くする!」

「ひょっ、ひょえ!」


 ちょっと強めに言うと、3人組は金縛りにあったみたいに一瞬で気をつけの姿勢になる。「こ、これが魔法少女オタクというやつでありますか?」「お、おそろしいですな」なんてボソボソ話してるけど、聞かなかったことにしよう。


「ま、魔法少女~、負けるなですぞ~」

「誰かは知りませんが、みんなを守ってくだされー」

「ふぁ、ファイトですぞー」


 三者三葉、ホワイトリリーに向かって応援の言葉を投げかける。どうでもいいけど、さっきまで電車怪人の見た目を熱弁していたときはあんなに大きな声だったのに、なんで今は小さくなってるんだろう。

 ともかく、私も負けてはいられない。


「あんな怪人、やっつけちゃって! ホワイトリリー!」


 声を上げる。するとほかにパラパラと残っていた人たちからも「いけいけ!」「なんだか知らないけど、負けるな!」といった応援が聞こえてくる。


「ガタタタ……なんだか周りがうるさいなガタ」


 対峙たいじしてにらみあう中、ホワイトリリーに向かって通勤快速怪人は笑う。


「しかしこの程度の応援、あってもなくても一緒だガタ。こんなもの、満員電車の中では押しつぶされて消えてしまうんだガタ」

「……いいえ。そんなこと、ないわ」

「ん? なんだ? なにか言ったガタ?」

「ちゃんと聞こえてきて……すっごく力になるって言ったのよ!」


 ホワイトリリーが力を込めて答える。そして素早い動きでステッキを掲げなおして、


「ホワイトスター!」

「ガタッ!?」


 再び光の直線が怪人に激突。でもそれはまったく同じじゃなくて、


「威力が上がっている……ガタ!?」


 両者のぶつかり合いは、さっきよりも互角になっている。だけど押し切るには、もう一歩及ばないように見える。


「こうなったらこっちも考えがあるんだガタ!」


 バチン! とホワイトスターをはじくと、怪人は高らかに叫ぶ。


「必殺! ノンストップ通勤快速!!」


 かと思えば、ホワイトリリーの周囲をぐるぐると高速でまわりはじめた。


「ガタタタッ! 気分は山手線だガタッ! 終点がないから俺を止められるものはいないガタ!」


 ぐんぐんと速度を上げていくと、あっという間にその姿は目で追えなくなる。3両しか連結していないはずなのに、もっとたくさんの車両がつながっているようだ。まるで分身しているみたい。


 ぐるぐるぐるぐる。見てるだけで目が回りそう。けどあのうずの中にいるホワイトリリーは、外にいる私たちの比じゃないはず。


「ここだガタ!」


 すると、怪人が攻撃に移る。ホワイトリリーのスキをつくように、背後からまっすぐと体当たりをしかけていった。


「くっ……ホワイトスター!」


 ぐるぐるまわっていた残像に気を取られてしまうので、どうしても反応が遅れる。それでもホワイトリリーは、身体をひねってなんとか攻撃を放つ。


 ギリリリッ! さっきと同じ互角のけずりあうような音。そうなると、押し負けてしまうのは必然的に態勢が不安定な方で、


「きゃっ」


 ホワイトリリーの身体が後方へとはじかれる。うまく受け身をとるも、その場にひざをつきそうになっていた。


「ガーッタッタッタ! どうだガタ! この攻撃、防ぎようがないだろガタ! 俺の勝ちだガタ!」


 勝利宣言をする怪人。余裕そうにポージングまでしている。


「だから言ったガタ? しょせん応援なんかあったところで変わりはしないガタ」

「ホワイトリリー……」


 やっぱりちょっとくらい応援したところで、力にはなれないってことなのかな……。


「そんなことないわ」


 思わずうつむきそうになると、そんな声が聞こえる。


「そんなことないわ。みんなの応援は、私の力の源よ」

「ガタタタ……、負け惜しみは見苦しいぞガタ」

「負け惜しみなんかじゃない。何度だって答えるわ。あなたたちがマイナス感情をエネルギーにしているみたいに、私はみんなの声ひとつひとつが力になるの。それに――次であなたは負けるわ」

「なんだとガタ? そんなデタラメなこと言ってもだまされないガタ」

「ウソなんかじゃないわ。その証拠に」


 ホワイトリリーはぴんと背すじを伸ばして堂々と立っている。そして言う。


「見せてあげるわ、私の新しい力!」

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