第103話 総力戦

「待ちなさいっ!」


 んだ声が響いて、怪人たちの動きが止まる。

 いったい誰が、なんてのは見なくてもわかる。


「その人たちから離れて、おとなしくしなさい!」


 声の主はふわり、と綿毛のように宙を舞って人だかりを飛び越えると、怪人たちの前に華麗な着地を決める。


 フリフリのスカートに、胸と腰の大きなリボンは一点の汚れもない純白。絹のようなブロンドヘアに、かわいらしいステッキ。その登場シーンは、何度目だろうと見とれてしまう。

 魔法少女ホワイトリリー。


「私が来たからには、もう好きにさせない……わ?」


 ステッキを掲げ、ビシッと決めようとしたセリフは徐々にしぼんでいって、最終的に疑問形になってしまった。それもそう、


「あなた……この前にたおしたのに……。しかも3体……?」


 私が現在進行形で抱いている疑問と同じことを口にする。


「ガタタタ……」


 すると、電車怪人のうちの1体が不敵に笑って、


「お前がたおしたのは『各駅停車』だガタ」

「各駅停車?」

「そうだガタ!」


 答えると同時、怪人たちが動き出す。まさか攻撃する気? ホワイトリリーもそれを予感したのか、構えをとる――が。


「俺は電車怪人『準急』ガタッ!」

「同じく『急行』ガタ!」

「そして俺は……『特急』ガター!」

「「「俺たち、電車怪人四天王だガターッ!」」」


 ビシイィィッ! と彼らはホワイトリリーの前でポーズを決めただけだった。ムキムキの手足を曲げたりして。それこそボディビルダーみたいに。


「ガタタタ……『各駅停車』をたおしたくらいでいい気になるなよガタ」

「アイツははわれら四天王の中でも最弱ガタ」

「ホワイトリリーに負けるとは、四天王の面汚しだガタ」


 なんだかどこかで聞いたことのあるセリフを言いながら、ものすごく得意げになっている怪人たち改め、電車怪人四天王(ひとり脱落)。

 まあ中身はともかくとして、3対1の構図ができあがっていた。


「それにしても、まさか怪人を3体も用意するなんて」

「ほっほっほ、苦労したのう」

「せやけどその甲斐あって、ええ怪人ができたで」

「ハカセ!? それにベル!?」


 いつの間にか私の両隣には、つるつる頭の老人に黒猫。


「ボスに決戦って言われてから急ピッチでつくったんや」

「そういえば、できるだけ怪人の準備をするって言ってたもんね」


 だから前の怪人のパチモン、もといモチーフにしてるんだ。たった数日でまったく新しい怪人をつくのはやっぱり難しいんだ。


「でも3体で大丈夫? 前の牛丼怪人のときと数が同じだし」

「そこはぬかりないで。いくんや!」

「「「キ――――ッ!」」」


 ベルが合図すると、さらに戦闘員が3人、ホワイトリリーの背後につく。いわゆる挟み撃ちの形。

 合計、6対1。


「この戦力差……さすがのホワイトリリーでも太刀打ちできひんやろ」

橋本はしもと殿たちも家族サービス返上で時間をつくってくれたからのう」


 さすがボスが決戦というだけはる。悪の組織が今もっている戦力の、まさに総動員だ。

 ベルは少し前に出ると、後ろ脚で立ち上がって宣告する。


「ホワイトリリー! 今日こそ決着をつけるで!」

「ベル……そうね、そのつもりみたいね」

「せや! 降参するなら今のうちやで?」

「いいえ。降参するのはそっちよ、ベル」


 負けを認めるよう促すけど、そんなことではホワイトリリーは折れるはずもない。


「はん! あとで泣きべそかいてもしらんで! いったれ!!」

「「「ガターッ!」」」

「「「キ――ッ!」」」


 ベルが前脚を高く掲げると、総勢6体の敵が叫びながら一斉にとびかかる。全方位からの攻撃。ホワイトリリーに回避できるスキはない。

 けれど、彼女は落ち着いたまま、つぶやく。


「あなたたちがそのつもりなら……私も本気でいくわ!」

「なんやて?」


 直後、彼女の身体は光に包まれる。まぶしくて、思わず目を閉じてしまうくらい。


「ガタッ!?」

「キーッ!?」


 怪人たちも直前で止まり、手を顔の前に持ってくる。私も反射的に顔をそらしてしまう。

 やがて光は彼女のもとへと収束していく。そして小さくパンと弾けると、


 真っ白な羽をたずさえた、魔法少女が立っていた。

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