第102話 電車ってみんな同じにしか見えない

「ガタンゴトオオオォォンッ!!」


 大通りに出た瞬間、響いてきたのは聞き覚えのある鳴き声だった。


 あれってたしか……。

 歩道にはたくさんの人がいるので、その姿は見えない。私は声のする方へ向かって、人ごみをかき分けて進んでいく。ほどなくしてそれを抜けると、道路のど真ん中に電車怪人が立っているのが見えた。


 そう、この前ホワイトリリーにたおされたはずの電車怪人。

 しかも3体。

 あれ? たしかこの前やられたはずじゃあ……。


「おい! 車が通れねえだろ!」

「死にてえのか!」


 怪人が道路をふさぐ形になっているので、、走ってきた車は次々と止まってクラクションを鳴らして怒鳴どなる。


「うるさいガターッ!」

「車なんかに乗ってるやつは黙ってるんだガターッ!」

「電車こそ最高の乗り物だガターッ!」


 が、電車怪人たちはひるむどころか声を荒げて威嚇いかくして返した。逆に車に乗っていた人たちは怪人たちの奇抜きばつな見た目もあってか、黙り込んでしまう。

 それに満足したのか、車からは興味をなくして今度は歩道から様子をうかがっている人たちの方を向くと、


「ガタタタッ、人がたくさんいるガタッ」

「これはぎゅうぎゅうに押し込んでやりたくなるガタ」

「やってやるガター!」


 ムキムキの肩を震わせて笑う。その直後、


「「「満員電車を味わうガター!」」」


 人ごみに向かって走ってきた。


「きゃあああっ!」

「に、逃げろ!」

「ガタタター! 感じるガタ、人間の恐怖の感情ガターッ!」


 周囲に充満するマイナス感情エネルギーを感じ取っているのか、両手をあげてうれしそうにする怪人たち。

 まさに阿鼻あび叫喚きょうかん。穏やかなはずの日曜日は一気に混乱の渦の中へ。


 ひとまず、私も離れよう。

 人ごみの動きに流されて、自然と私も怪人たちから距離をとる。変身しているわけでも、マントの力を使ってるわけでもないから、近くにいても危ないだけだ。


 そして、あっという間に怪人たちの周りには誰もいなくなって――いなかった。

 1、2……合計3つの人影が、まだ残っているではないか。


「ガタタ……運の悪いやつらだガタ」


 え、もしかして逃げ遅れたの?

 まずい。このままだとあの人たちがケガしてしまう。マイナス感情エネルギーを集めるのはいいけど、さすがにケガさせるのは見過ごせない。最悪の場合は私が変身して怪人たちの気を引き付けて――


「おお! あれは総武快速線のE235系ですな!」


 ……へ?


「よもや最新の車両をこのような形で見れるとは、感激ですぞ!」

「あっちにいるのは209系ではないですか!?」

「向こうを見てください! 引退した211系がいますよ!」


 私の心配をよそに、なにやら興奮気味に話している。


「ここうしてはいれません! すぐに記録におさめなければ!」


 パシャパシャパシャパシャ!

 すると、どこからともなく取り出したごついカメラで怪人たちの写真を撮りまくり始めた。


「くう~、このオレンジのライン、たまりませんなあ!」

「わかりますぞ!」

「偶然こんな素晴らしいのにめぐり会えるなんて、ついてますな!」


 盛り上がる3人。そのいで立ちは、全員チェックのシャツにジーンズ。そしてメガネ。

 もしかしてあの人たちって……鉄オタ?


 だから怪人とはいえ、電車の形をしているから恐怖よりも興味が勝ってるってこと? 電車からムキムキ手足が生えている変態的見た目なのに?

 オタクってすごいなあ……いや、私も人のこと言えないけど。


「ガタタタッ、お前らはわかっているガタ! ほめてやるガタ!」


 被写体になっていることはまんざらでもないみたいで、ポーズをとる電車怪人たち。いつの間にかそこは撮影会場になっていた。


 ……これなら、心配しなくてもいいかな。

 そのうちホワイトリリーもやって来るだろうし。気長に待っていればいい。


 なんて思ったのもつかの間、


「だが、ダメだガタ」


 怪人たちはポーズをとるのをやめたかと思えば、急に声を荒げて、


「俺たちの目的は、人間を恐怖させることだガタ!」

「そして満員電車に押し込んで、ぎゅうぎゅうづめにすることだガタ!」

「人間は俺たちにもっと恐怖の念を抱くんだガターッ!」


 鉄オタの人たちに対して拳を振り上げた。


「なっなんだ?」

「うわあっ!」

「ひいっ!」


 至近距離なので当然逃げることは不可能。今から私が変身しても到底間に合わない。

 やば、どうしよう――


「そこまでよ!」

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