第101話 待機

「お待たせしました! 『「お節のブラホワで総合優勝だと思う。」三月特製栗きんとんパフェ』になります!」


 元気な店員さんが、私の前においしそうなパフェを置いた。


「おお……」


 思わず目が吸い寄せられる。栗きんとんにホイップクリーム、マロンアイスたちがのった豪華なパフェは、見ているだけで気分を明るくさせた。

 手を合わせて、さっそくひと口。すぐさま口だけじゃなくて身体中に甘さが広がっていく。


「ん~、おいし~」


 この部分だけを切り取ってみれば、休日にカフェでスイーツを味わうJC。なんにもおかしなところはない。

 だけど、よく考えてほしい。陰キャであるこの私がそんなことするだろうか。いや、ない。


 店内に流れている音楽は落ち着いたクラシック……なんてことはなくて、アップテンポなアニソン。壁のあちこちにはキラキラしたアニメキャラのポスターや等身大パネル。

 そして極めつけは、食べているパフェだ。ただのマロンパフェじゃない。これは『「お節のブラホワで総合優勝だと思う。」三月特製栗きんとんパフェ』なのだ。


 まあつまりどういうことかというと。

 私が今いるのは、アニメイトカフェだ。


 いつも行くアニメイト、その上の2階にアニメイトカフェはあった。日曜日とはいっても、まだお昼まで少し時間があるのでお客さんは少なめ。私は窓際の2人用の席に陣取って、パフェを食しているわけである。もちろん、2人席だからって誰かと来ているわけでもない。


 じゃあなんで日曜のこんな時間に、アニメイトカフェに来ているのだろうか。


 無性むしょうに甘いものが食べたくなったから? 違う。どっちかっていうと甘いものは控えないといけない。体重的に。

 朝のプリピュアを見た余韻よいんひたりたくて? 違う。余韻に浸るなら家で見返してる。

 コラボしているアイドリッシュセブンが好きだから? 違う。申し訳ないけどアイドリッシュセブンはよく知らない。


「……」


 すぐ近くにある窓から、外に視線を移す。アニメイトが面している大通り。休日らしく、車道には車が、歩道には人がたくさん行き交っているのがよく見えた。

 私は、待っているのだ。


 その場所で、決戦の火ぶたが切られるのを。




『決戦の詳しい時間と場所が決まったで。日曜の昼前、駅の近くの大通りや』


 ベルからLINE電話がかかってきたのは、土曜日の夕方。


『わかった。それで、私はどうしたらいいの?』

『それがやな……』

『?』


 電話越しに首をかしげていると、ベル本人も困惑した声で、


『ボスからは、あんさんに向けての指示は特になかったんや』

『そうなの?』

『ああ』


 スピーカーの向こうから、彼の首についた鐘がチリンと鳴るのが聞こえる。


『せやけどあんさんが戦力になるんは間違いない。やからオレとしては来てほしいんや。そりゃーあんさんは気は進まんやろうけど』

『行く』

『ほ、ほんまか!?』

『うん、行く』

『そう言ってもろうてほんま助かるわ。ほんなら明日はええかんじのタイミングで加勢、頼むで』

『うん、じゃあまた明日』


 …………。

 ……。


「ふあ……」


 ぼんやりと昨日の会話を思い出していると、あくびがれ出た。昨晩、夜ふかししてしまったからだろう。


「決戦、か」


 たしかにベルには『行く』と答えた。でもそれはボスと前に話したとき、最後にこう言っていたからだ。


 ――これは僕の戦いだ。だから、本当は魔法少女が好きな君には参加は強制しない。

 ――でも。君には、僕の戦いを見届けてほしいと思ってるんだ。


 それが、今日までずっと耳に残っていた。前からしていた約束みたいに。

 ボスの言葉どおり、戦うつもりはあんまりない。でもだからってただ遠くからながめているだけのつもりもない。そのための準備・・もしてきた。

 あとはどうなるかはわからない。戦いが始まらないことには――


「ん?」


 かすかな異変を察知して、私は再び窓の外に目を向ける。

 なんだろう。さっきと外の様子が違うような……。人の流れも、さっきまでは川の水みたいに自然だったのに、今はまるで渦を巻くようだ。


「あ……」


 それがなにを意味するか、理解できない私ではない。


 ……始まったんだ。


「行かなきゃ……!」


 小さくつぶやく。

 私は急いで会計を済ませると、店を出た。

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