第97話 これっていわゆる、社長面談?
悪の組織のボス、わが家へ突然の来訪。
というわけでさっそく私の部屋にあがってもらって――とはならずに、近くの児童公園へと場所を移すことにした。
もう日も落ちようかという時間帯に、ふたりきりで公園。へたすれば『人気俳優の
まあ部屋に上がってもらえば誰かに見られる心配とかしなくていいのかもだけど、それは私の精神がもたない。友だちだってぜんぜん入ったことないのに。
ともあれ、私たちは公園に来てそれぞれブランコに腰を下ろしていた。ちなみにベンチじゃないのは、並んで座ったら距離が近くて緊張しちゃうから。
「……」
キコキコ、キコキコ。聞こえてくるのはブランコがこすれる音だけ。え、私この状況でどうしたらいいの?
「えっと、あの……
「ボスでいいよ」
とりあえず呼び方をどうしようかと思って訊くと、そう返事が返ってきた。
「もちろん、一般人がいるときは合わせてくれると助かるけどね」
「あ、はい。ボス……さん」
こっちも助かった。私にとってこの人は人気俳優の神宮寺レオンというよりは、組織のボスっていう認識だし。よくわからない親戚設定の名前で呼ぶのも慣れなさそうだし。
「君とは一度、ゆっくり話をしてみたいと思っていたんだ」
「話、ですか?」
明後日の決戦での作戦のこと? いやそれも、
『君は知りすぎた……僕の正体を知る記憶は、消さないといけない……』
もしそうだったらどうしよう!? ボスの正体は忘れていいけど、魔法少女が現実にいるって知ってる記憶は消さないでほしい! それだけはどうか! どうかお願いします――
「君、魔法少女が好きなんだって?」
「へ……?」
その質問に、さっきまで考えてたことが全部ふっとんだ。
「な、なななんでそれを……?」
「さっき君のお母さんから聞いてね。『あの子、まだポリピュア? かなにかが好きなのよー』って言っていたから」
「おっ……」
お母さん~~~~っ!
なんてこと言うのよ! いやお母さん的には身内に話してる感覚なんだろうけど、その正体はぜんぜん、まったくの赤の他人なのに!
「別に、そのことを誰かに言いふらしたりはしなから安心してくれていいよ」
「ほっ。じゃあ記憶を消すとかもしないんですね」
「記憶?」
「あっ、いえ! こっちの話です」
とりあえず、ボスの正体を知った私の記憶を消すとかペナルティはないみたい。ひと安心。
「それで、魔法少女が好きなのに、どうして君は僕たちの組織にいるんだい?」
「あ、はい。それは――」
要約して、私はこれまでの経緯を話した。それはもう
「……なるほどね」
私が話し終えたところで、ボスはそう言葉を区切って、
「それは少し、悪いことをしたね。今度ベルに言っておくよ、無関係の子を無理やり巻き込むなって」
「……」
ベル、ごめん! そのうちボスに怒られるかも!
心の中で手を合わせる。まあでも、ベルが無理やり私を引き込んだのは事実なんだし、いい薬かも。
ブランコから伸びる影は、ここに来たときよりも地面と同化してきている。もうちょっとしたら家に帰らないといけない。
「あの……私もひとつ、訊いていいですか?」
「いいよ」
「ボスはどうして、悪の組織なんてものをつくったんですか?」
以前、ベルに似たような質問をしたけど答えてもらえなかった。直接訊いても答えてもらえないかもしれないけど、ずっと気になっていた。
「そうか、君が気になるのは
「え?」
なにかつぶやいたような気がするけど、よく聞こえなかった。私が首をかしげて隣を向いていると、ボスは再び口を開き、言葉を発する。
そしてそれは、まったく予想していないものだった。
「この組織をつくったのは、僕じゃないよ」
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