第95話 決戦予告

「ボッ、ボボボボボスの部屋に行ったやって!?!?!?」

「いや、慌てすぎだってば」


 ボって連呼しすぎて、なんだかコンロが点火したみたいになってるし。


「そうは言うてもやな、オレも入ったことないんやで?」


 夕方に宿題をしていたところ、ベルがやってきたので私は数日前の出来事をざっくりと報告した。

 ちなみに、どうしてあの日LINEの返事がなかったのか訊いたら、駅でうっかり電車に乗ってしまって、気づけばかなり遠くに行ってしまっていた、とのことだった。それはもう大冒険のように語っていたけど、宿題をしながらだったので半分くらいはもう忘れかけている。


「にしても、オレはうれしいで」

「どういうこと?」

「オレが頼んだ偵察ていさつっちゅー仕事を早速やってくれたんや。なんやかんや言うても、オレや組織のことを思ってくれてるんやろ?」

「あー……うん」


 部屋に入ることになったのはホントに偶然だったんだけどな。まあいいや、黙っとこう。


「そんで、どやった?」


 ずずい、と私の顔をのぞきこんでくる。くりんとした目は期待でキラキラしていた。


「この町に来た理由、ボスに訊いてくれたんやろ?」

「あ、いや。その……」

「……もしかして、訊けてないんか?」

「……」


 沈黙ちんもくする私を見るやいなや、ベルは「はあ~っ」とわざとらしくため息を吐いて、その場にごろんと転がる。


「なーんや、てことは実質収穫ゼロやん。喜んで損したで」

「そ、そんなこと言われてもしょうがないじゃない。男の人の部屋に入ったのなんて初めてだったんだし」


 そんな場所ですらすら会話ができるなんて、陽キャじゃないんだから。いや、陽キャを通り越してビッチだ。私の陰キャレベルをなめないでほしい。

 しかも乃亜のあさん、もといホワイトリリーが一緒だったんだ。仮に訊く余裕があったとしてもその状況じゃとてもじゃないけどそんな話できない。


「ほんなら、ほかに気づいたことはあらへんか? 部屋の中に変わったとこがあったとか」

「うーん」


 首をかしげながら、あのときの情景を脳内で再生する。

 たしか部屋の中には丸いテーブルがあって、それから……。


「とくに変なところとかはなかったかなあ」


 部屋全体が白っぽくて、物が少ないっていう印象は持ったけど引っ越してきたばかりだ。なにもおかしくないというか、むしろ当たり前だ。


「はあ~っ」

「だ、だからなにもなかったんだってば」


 なにもないっていうのにどうしろというのだ。


「ていうか、ベルこそ用事があって来たんじゃないの?」


 このままだとただ宿題のジャマをされるだけの未来が見える。用件があるならさっさと済ませてもらうことにしよう。


「せ、せや!」


 と、ベルは思い出したように大声をあげた。


「せやせやせやせや! こんな話をしてる場合とちゃうねん!」

「む」


 なによ、人がせっかく報告したりしてあげてるのに。


「ボスの話はもういいってこと?」

「いや、そうやない」

「?」


 言葉の意味がわからずにいると、ベルは身体を起こして私の方へ向き直る。


そのボス・・・・から、今朝連絡があったんや」

「連絡?」

「ああ」

「いったいどんな連絡だったの?」

「決戦や」


 いつになく重たい口調で、ヒゲを揺らしながら、続けてこう言った。


「週末の日曜日、ホワイトリリーとの決戦や――ってな」

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