第94話 ホワイトリリーvsボス、激突?
この状況を、いったいなんて説明したらいいんだろう。
「……」
「……」
リビングの丸テーブルを前に並んで座っているのは2人。私と、もうひとりは
「ふたりとも、オレンジジュースしかないけどいいかな?」
キッチンの方から声。この部屋の主である、
「はい、どうぞ」
「あ、はい」
「ありがとう、ございます……」
神宮司さんはオレンジジュースの入ったグラスをふたつ持ってくると、私たちとテーブルを囲む形で座った。
そう、私たちが今いるのはアジトのある雑居ビル。だけどアジトがある4階じゃなくて、その下――神宮寺レオンの部屋だ。
まあ簡潔にいうならそういうことになる。文章にしたら1行くらいの、単純なこと。
ただそれは表面的なものでしかない。問題はそこじゃないのだ。
いやだってこんなの、ありえないでしょ……。
悪の組織のボスと、その女幹部、それに魔法少女が同じテーブルを囲んでるなんて!
ほんと、いったいどういう状況!? プリピュアでもこんなシーン、見たことないよ!
不幸中の幸いなのは、全員の正体を知っているのは私だけってことだけど……。でもそれも、かろうじてバランスを保っているみたいなもの。いつどうなるかわからない。
かといって私がなんとかできるとも思えない。初めて男の人の部屋に来たこと、それからなんともいえない違和感に胸をドキドキさせながら「なにごともなくこの時間が過ぎ去りますように」と願って、ふたりの出方をうかがうことにすることにする。
「この子は
と、話を切り出したのは意外にも神宮寺さんだった。
「え?」
「あの、ちーちゃんとお知り合い、なんですか?」
私、この人に名乗ってったっけ。そんな驚きと、なにか引っかかりを覚える私をよそに、乃亜さんが訊く。
「ああ。そういえば自己紹介してなかったね。僕は
「え――」
なにそれ、なんでウソつくんですか。思わず口をついて出そうになった瞬間、
『今は僕の話に合わせてくれないかな。その方が、君とってもこの場をやり過ごしやすいと思うよ』
脳に直接響いてくる神宮司さんの声。これってまさか、テレパシーってやつ?
悪の組織のボスともなれば、たしかにそれくらい使えてもおかしくはないけど……。
『ここで僕の正体がバレれば、
再びのテレパシーとともに、神宮司さんあらため越前さんがこっちを向く。遅れて乃亜さんも私の顔を見た。
「そうなの? ちーちゃん」
「う、うん。あんまり会ったことないんだけどね」
「仕事の都合で最近こっちに引っ越してきてね。階段を下りたら千秋ちゃんたちがいたから驚いたよ」
「はあ、そうなんですか……」
私が話を合わせたおかげで、完全にとはいかなくとも納得してくれた様子の乃亜さん。越前さんのいうとおり、これでこの場はなんとかなりそうなかんじだ。
……あれ?
ほっとしたことで思考に余裕ができたおかげで、私はさっきの
そういえば、なんで乃亜さんは神宮寺レオンだって気づかないの?
だって目の前にいる人間は、テレビや雑誌で顔だししまくってる人気俳優の神宮寺レオン。越前龍平なんて偽名や、私と親戚だなんてウソ、すぐにバレるに違いない。
そう思って越前さんにこっそりと目線を送ると、
『認識変換をしているから、彼女には僕の姿は神宮寺レオンとは認識されていないよ』
テレパシーが聞こえる。なるほど、認識をずらす魔法を使っているってことらしい。要は私の透明マントと似たような力なのかな。
でもそこには大きな違いがある。この人は、道具を使っている
やっぱり、ボスなだけはある。まさに魔法少女のラスボスといえる存在だ。
「でもふたりはなんでこのビルに? このあたりは人も少なくて薄暗いから中学生だけで来ない方がいいよ」
今度はボス(ややこしくなってきたので心の中ではボスと呼ぶことにした)が質問する。
「えーっと……」
「猫を見かけたんです。それで、追いかけてきたらここに来ちゃって」
なんて答えようか考えていたところに、乃亜さんがフォローを入れる。ほんとはちょっと違うし、私たちは一緒に来たわけじゃないけど「私に任せて」とばかりにこっそりウィンクを送ってきた。
ちなみに、エリーさんの姿はいつの間にか見えなくなっていた。あんまり一般人には見られないよう心がけているんだろうか。
「そうなんだ。このへん、野良猫が多いよね。僕もこの前、黒猫を見かけたよ」
それって、ベルのことかな……。ウロウロしてるの見られてるって、次会ったら言ってあげよ。
「そういえば、上の階に変な名前の会社があるみたいなんですけど……なにか知ってますか?」
乃亜さんが再び問いかける。それはきっと、この部屋に来た一番の目的といえる質問だった。
「ああ、(株)悪の組織、だっけ。おもしろい名前だよね」
「なにか、あやしい会社とかじゃないですよね?」
「そんなことないよ。小さいけど、ただの人材派遣会社。僕も引っ越したばかりのころにあいさつに行ったけど、普通のオフィスだったよ」
「そ、そうですか」
さらりとかわすボス。だけど乃亜さんも、マイナス感情エネルギーがうず巻く中心を探る使命があるからだろう、さらに質問しようとして、
「でも、もしかしたら実は変な会社かも――」
「大丈夫だよ。もしそんな会社だったら、僕が警察に通報するし」
言って、やわからく笑う。ファンが見たら
「もう暗くなるし、帰った方がいいかもね。探検もほどほどに、ね?」
「あ……はい」
たしかに窓からのぞく太陽は、そのほとんどを隠している。夜の境目は、もうすぐそこだった。
「それじゃあ……おじゃましました」
「こっちこそ、たいしたおもてなしもできずに。またいつでも遊びにおいで。
「は、はい」
「気をつけて帰るんだよ」
ぺこりと一礼してから、部屋、そしてビルを出る。
「じゃあ、また明日ね。ちーちゃん」
「う、うん」
こうして、図らずも訪れたボスの部屋への
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