第86話 合縁奇縁?
朝。私はいつものように登校して、さわがしい教室へと入った。
……結局、ボスはなにが目的だったんだろう。
ぼんやりと考えながら席につく。昨日、ボスとの通信が終わってから浮かんだままの疑問の答えは出ないままだ。
それに、ベルの様子も変だった。
失敗した私にガミガミ
うーん。
「ちーちゃん、おはよー」
すう、と鼻をくすぐるようないいにおいと
「お、おはよう」
「昨日は大変だったねー。はぐれちゃったけど、ちーちゃんはあの後大丈夫だった?」
「う、うん。乃亜さんの方は?」
「私は平気平気。人ごみからもうまく抜け出せたから」
「そっか……」
魔法少女として戦ってたもんね、とは言えない。まあ私だってお互いさまだし。それに乃亜さんは私の正体を知らない……はずだし。
「それにしても、月曜日の朝はねむいねー」
んーっ、と乃亜さんがのびをする。思わず吸い寄せられる視線の先には、モデルみたいに細い腰に……ゆるやかに、だけどしっかりと曲線を描くふたつの山。イコールおっぱい。
……あれ、触っちゃったんだよね、私。
やわらかかったなあ……私もまあ胸はない方じゃないけど、やっぱり乃亜さんの、魔法少女のってとこがポイント高い。なんていうか、幸せな気持ちになれる? みたいな?
はああ……思い出しただけでニヤけてきちゃう、うへへ……。
「ちーちゃん? どうかした?」
「いっ、いいいいいや別に? な、なんでもないよ?」
おっぱいに
人に言えないヒミツがまたひとつ増えちゃったなあ……。
「そっ、それにしても! なんだか今日は教室がにぎやかだね」
このままだろボロが出ること間違いなしなので、話題をそらすことに。けれど実際いつもよりザワザワしていて、少し気になっていた。
「あ、ちーちゃんも気がついた? そうなの、みんなあの話題で持ち切りみたい」
「あの話題?」
なにか大きなニュースでもあったのかな。あんまりニュース番組とか見ないからわかんないなあ、なんて首をかしげていると、乃亜さんは「私もさっき友だちから聞いたんだけど」と前置きしてから、
「
「へえ……」
正直、あんまりピンとこなかった。でも。
神宮寺レオンって、どこかで聞いたことある名前だなあ。ええっと、どこで聞いたんだっけ……あ、そうだ。
「昨日のドラマ撮影に来てた人?」
「そうそう。騒ぎがあったけど撮影は無事終わって、撮り終えたらしいんだけど、そのあとすぐに休止を発表したんだって」
「そうなんだ」
耳をすましてみれば、女子グループからは悲しむ声がちらほら。男子もそれについて会話しているみたいだから、男女問わず人気なんだろう。
「あ、予鈴だ。じゃあまたね、ちーちゃん」
「うん」
無機質なチャイム音が流れてきて、おしゃべりしていたクラスメイトは自分の机に戻っていく。そして教室内の会話は
人気俳優の突然の活動休止。
クラス中がその話題で持ち切りになるってことは、かなりビッグニュースなんだろうなあ……。
「――ま、私には縁遠い話だよね」
時は過ぎ放課後。歩きながら、私は誰に言うわけでもなくつぶやいた。
家に帰らずに直接向かうは、アジト。特に用事があるわけでも、
ベルはきっと次の作戦を考えてるだろう。昨日は私のせいで作戦が失敗したから、その罪滅ぼしってわけじゃないけど、手伝った方がいいような気がした。
私も活動休止、といきたいところだけど、そうもいかない。
「あれ?」
アジトのある雑居ビルまでやってくると、建物の前に1台のトラック。よく見る引っ越し会社のキャラクターが描かれていた。
誰か新しい人が入るのかな。
ともすれば自分たちにそのままブーメランで返ってきそうなことを考えながら、エレベーターが下りてくるのを待つ。ビルもボロければエレベーターも古いから、下りてくるのにいつも時間がかかるんだよね。
あ、そうだ。せっかくだから今のうちにニュースでも見てみようっと。
スマホでニュースアプリを開いて(スマホを買ってから初めて起動したんじゃないだろうか)例のニュース――俳優の活動休止の記事を探す。
別に興味はぜんぜんないんだけど、乃亜さんと話すネタになったらいいな、そんな思いからだった。ほんと、乃亜さん相手だともっと話したいなって思えてきたりするから不思議だ。
記事はすぐ見つかった。『神宮寺レオン 突然の活動休止!?』という見出しからスクロールして読んでいくけど、憶測ばかりのなんともいえない内容だった。
そして最後に、俳優の顔写真が載っていて――
「え、この人って……」
思わず声が出たと同時。チン、と音が鳴って、エレベーターのドアが開いた。
「あ……っ!」
中には人がいて、思わず目が合う。
瞬間、私はもう一度驚いた。
そこにいたのは、前に会ったことがあって。昨日助けた男の人がいて。
スマホに映っている人と同じ顔だったから。
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