第84話 選択
私の腕が触れた瞬間、ホワイトリリーは驚きの声を上げた。
「えっ!?」
当然といえば当然、誰もいないはずの背後からいきなり腕をまわされたんだから。それに彼女からは、なにもないところから腕が出てきたように見えているはず。シンプルに心霊現象だ。めちゃくちゃ怖がられているに違いない。
「ちょっ、なにこれ? う、動けない……」
事実、ホワイトリリーは
だけど、そんなこと今の私には関係なかった。
というか、それどころじゃなかった。
「ほ……」
ほわあああああああああ!!
ホワイトリリーに抱きついちゃったああああ!
やわらかい! いいにおい! やわからい! いいにおい!
それしか感想が出てこない。
透明マントごしに伝わってくるあたたかさ。私がビキニしか身につけていない状態だから、まるで裸で密着してるように感じちゃう。
大好きな魔法少女をぎゅーっとできるなんて……私、生きててよかった……。悪の組織の一員になることを選んだのは、間違いじゃなかったんだ……。
ふわああ、今が人生でいちばん幸せかも――
ふに。
「え?」
ふと指先に感じたのは、やわらかな感触。なんだろう、ふわふわで、まるでマシュマロみたいな……
「んっ」
そして、私が触ったのに反応するようにホワイトリリーから小さな声。
ふに。
「ひゃっ」
ふにふに。
「ひゃわっ」
え、ちょっと待って。
私が触ってるのってもしかして。
お、おおお、お、おっぱ――
「なーっはっは! 動けんやろ!」
――はっ!
あ、あぶなかった……ベルの声がなかったら私、私……。
って、いけないいけない! 今は作戦に集中しないと!
そう思って抱きつく腕をおなかのあたりに変える。これでもう間違いはおきない、はず。
「どや、今日のオレらがひと味
ベルの声が大きくなった。身体を少しだけ動かして、透明マントのスキマからのぞくと、黒猫はホワイトリリーのすぐ前にいる。動けないのをいいことに、嫌がらせみたいに近づいているみたいだ。
「たしかに動けないわ。なかなかやるじゃないベル」
だけどホワイトリリーは
「これもその怪人の力? それともそれは
「ふふん、そいつはどうやろなあ」
後ろから
「さあーて。今までずーっとやられてきたから、どない仕返ししてやろうかなあ」
「くっ……。あなたたちがどんな
なんだかそのセリフ、死亡フラグな気がするなあ。あとちょっとえっちにも聞こえる。なんでかはよくわかんないけど。
「ほんなら今のうちや! 電車怪人! マイナス感情エネルギーをがっぽがっぽ集めるんや!」
「ガターッ!!」
ベルが号令をかけると、電車怪人が両手を上げて動き出す。
その向かう先は、
「うわあああ!」
「こ、こっちにくるぞ!」
逃げ遅れているのか、まだ地下街のすみっこでかたまっている人たちの方。
「ガタタタッ! 電車がまいりまああっす!」
「に、逃げろ!」
「早く行ってよ!」
「ちょっ、押さないで!」
ふくれあがるパニック。マイナス感情が
「こっちだよ!」「早く逃げよう!」
それでも、なんとかしてこの場から
と、次の瞬間。
「っ!」
あ、あの人は……
表情の薄い顔。見覚えがある。この間、路地裏で助けた人だ。
あの人もドラマ撮影にを見に来てたってこと? あんまりそういうの興味なさそうなかんじだけど……。
「ガタタ、逃げ遅れるなんて運が悪いガタ」
怪人はどこかウキウキしている。エネルギー源になりそうな人間、つまりはごちそうが目の前にあるからだろう。
「お前にはとびっきりの恐怖を感じてもらうガタ!」
すると、怪人は腕を振り上げる。あの人に直接的なダメージを与えて、さらにエネルギーを得るつもりなのだ。
「さあ! おびえて絶望しろガターッ!」
そう叫んで、怪人は男の人めがけて腕を振り下ろした。
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