第83話 戦闘開始!

「待ちなさい、怪人!」


 透き通るような声が聞こえ、暴れまわろうとする電車怪人の動きを止めた。


「ガタタタ……出たなっ!」


 いったい誰が、なんて問いは野暮やぼだ。

 そこにいるのは愛と正義の魔法少女、ホワイトリリー。


「みんなが楽しみにしている撮影現場に現れるなんて、許せない!」


 真っ白なスカートと腰についた大きなリボン、それからまばゆいブロンドヘアがふわりと揺れる。悪と対峙たいじするその姿は、誰もが見とれてしまうほどにきれいだ。

 それが魔法少女ファンならなおさら。くぎづけになるだけじゃなくて、きっとその場から動けなくなるに違いない。


 だから私も、彼女の後ろ姿をじっと見つめていた。

 透明マントをかぶって。そして、


 黒のビキニ姿で。


「もうやだあ……」


 頭を抱えながら心の声をもらす。

 いつもはマントが目線をさえぎっているけど、今は頭からかぶっているからいやが応でも自分の格好かっこうを認識させられる。私の身体を隠してくれるのは、グラビアアイドルが着るのかってくらいキワドイ面積の布だけ。


 いっそこのまま、ホワイトリリーの戦いを後ろからながめてたいよ……。

 だけど、それを周りは許してはくれない。


「ホワイトリリーが動き始めたで! あんさんも追わな!」

「聞こえてるから、そんな大きな声で言わないでよ」


 ただでさえマントの中で音がこもるんだから。


「ホワイトリリーが怪人に気をとられてる今がチャンスや。このマントの力を見せてやるときやで」

「そうだけど……」

「キ――ッ!」


 と、戦闘員に変身した橋本はしもとさんたちがホワイトリリーの前に立ちはだかる。うう、まだ決心がつかないっていうのに、作戦はどんどん進んでいっちゃう。


「ほな、オレもアイツらに混ざって引きつけるから、頼んだで」

「あ、ちょ」


 するり、とマントの隙間すきまから抜けていくベル。かと思えば、すばやくホワイトリリーの前まで移動して、


「なーっはっは! 今日こそ勝たしてもらうでホワイトリリー!」

りないわね。そう言っていつも負けてるっていうのに」

「ふん! 強がってられるんも今のうちやで!」


 ちらっ、ちらっ。


「今日のオレらはひと味ちゃうからな!」


 ちらちらっ。


 ちょっと! こっちをチラ見しすぎだってば! それ以上見たらバレちゃうって! 

 あーもう! わかったわよ、やればいいんでしょ? やれば!


「そのセリフ、前にも聞いたことあるわよ?」

「ちっちっち、甘いなあホワイトリリー。オレらかていつまでも同じ失敗は繰り返さへんで」


 ホワイトリリーがベルとの会話に気を取られているうちに、私は手はずどおり、予定のポイントに移動する。


「ほな、さっそくいかしてもらうで!」

「キ――ッ!」

「ガターッ!」


 ベルが声を上げる。直後、戦闘員と電車怪人がホワイトリリーにとびかかる――が、


「ムダよ、シャイニングシャワー!」

「キ――ッ!?」


 無数の光の粒を放つ全方位攻撃が放たれる。


「キ――……」


 結果は言うまでもなし、戦闘員・・・はその場に力なくたおれていた。


「ほら、いつもどおりじゃない」

「ふっふっふ、そいつはどうかな?」

往生際おうじょうぎわが悪いわよ。観念しなさ――」

「ガタンゴトオオォォン!」


 ホワイトリリーの声がかき消される。怪人がホワイトリリーめがけて突進したのだ。


「そんな、さっき一緒に攻撃が当たったはずじゃ」


 ホワイトリリーの言うとおり、たしかに怪人も戦闘員と一緒に攻撃しようとしていた。けどそれは陽動で、戦闘員には怪人に攻撃が当たらないよう、盾の役割を果たしてもらったのだ。

 こうすれば、シャイニングシャワーで全滅はけられる。橋本はしもとさんたち今回もやられ役……ごめんなさい。


「ガタタタタッ! 電車がまいりまああっす!」

「くっ」


 目前に迫った怪人の身体を前に、ホワイトリリーは空に飛んでかわそうとする――


「!!」


 だけど、ホワイトリリーは飛ばなかった。いや、飛べなかったのだ。


 地下街だから空を飛ぶことはできなくて、接近戦に持ちこめる。ベルの作戦がバッチリとはまった形になった。

 すごい、ベルの作戦がうまくいってるなんて。


「さあ! いくんや電車怪人!」

「ガターッ!」

「……ふっ!」


 とはいえ、さすがは歴戦の魔法少女。身体をうまく使って、なんとか電車怪人の突進をかわすことに成功する。


「なかなか考えたわね。だけど失敗よ」


 言って、態勢を立て直してステッキを握る。


「同じ作戦は通用しないわ。次で終わりよ、ベル」

「いいや、まだや!」


 ベルが再び声を上げる。同時に、怪人が動き出した。

 向かう先はホワイトリリー……ではなく、逃げようとしている人たちへ。


「ガタタタタッ! 黄色い点字ブロックまでお下がりくださああああいっ!」

「う、うわああ!」

「こっちに来るー!」


「なーっはっは! 今のうちにマイナス感情がっぽがっぽでパワーマシマシやで!」

「そうはさせないわ!」


 さっきの攻撃をけてスキが生まれたせいで、ホワイトリリーが怪人を追う形になる。飛べないから、走って。


 そして、彼女が予定のポイントを通過し。


 ――今だ!


 私はマントから両手を出して、ホワイトリリーに思い切り抱きついた。

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