第80話 ネクスト、バトルフィールド
クラスメイトにオタクだとバレそうになるのをなんとか回避してから数日後。
私は駅前へと向かっていた。
目的地は、牛丼怪人たちとの死闘を
その地下にある、いわゆる駅チカ。
どうして地下街を目指しているかといえば、誰かと待ち合わせがあって――でもなくて。
理由は、作戦のため。
そう、作戦の――
…………。
……。
「最高の作戦や!」
アジトに集めた私たちを前に、黒猫は高らかに宣言した。
「最高って……」
自分で言っちゃうんだ。不安しかないんだけど。
というかベルが自信満々って時点でイヤな予感しかしない。
まあ事前に作戦を考えるようになっただけ進歩、なのかな。
「で、どのあたりが最高なの?」
これでまた
「逆に訊くで。ここ数回の戦い、オレらの敗因はどこにあると思う?」
質問を返された。表情がちょっニヤけてるのがなんかムカつく。
「そんなの、無策で挑んだからじゃないの?」
「わ、わかっとるわそれくらい。それ以外で、や」
それ以外かあ。ってなると……
「ホワイトリリーは飛べるから、とか?」
「そのとおりや! あんさんもよう気がついたな!」
いや、だってそれ言ったの私だし。
いちいち口に出してツッコむのがめんどくさくなってきたから、心の中だけに留めておくと、ベルは話を続ける。
「そこでオレは考えたんや。早い話、ホワイトリリーが飛べへんかったらええんやってな」
「いや、飛べるのはあっちのスキルなんだから飛べなくするとか無理じゃないの?」
「ちっちっち、あんさんもまだまだやなあ」
「む」
「オレは気ぃついたんや。戦う場所を変えたらええってな、ハカセ」
「うむ」
呼ばれたハカセが立ち上がり、机の上に大きな紙を広げる。
それは、この町の地図だった。
「オレたちが次に戦いの場所に選ぶんは……ここや!」
黒猫が肉球をぷにっとさせて指した地点をみんなでのぞきこむ。そこに示されていたのは――
「駅前?」
今まで何度も戦っては負けた場所じゃない。最初のチューハイ怪人とか、牛丼怪人とか。
「
「下?」
「せや」
大きくうなずいて、そして
「次のホワイトリリーとの戦うフィールドは、駅の地下街や!」
「……」
「な、なんやねん! なんで無言なんや」
「いや、たしかに
「けど、なんや」
「ここ、ぜんぜん人がいないけど大丈夫?」
地下街を最後に通ったのはけっこう前だけど、その時点でほとんどのお店は閉まっていた。いわゆるシャッター街というやつだ。悲しいかな、これが都会でもないこの町の現状。
「怪人って、人のマイナス感情をエネルギーにするんでしょ? それなのにエネルギー源になる人がいなかったら、戦えないんじゃない?」
せっかく接近戦に持ち込んでいざ戦おうとして、怪人がパワーを発揮できなくて負ける。そんな未来が簡単に想像できる。……が、
「ぬっふっふ」
ベルはなにやら不気味に、肩を揺らして笑っていて――
…………。
……。
ほんとに大丈夫かなあ。
ベルの自信に満ちあふれた顔を思い出して不安になりながら、私は駅前までたどりついた。
『抜かりはないで。ちゃーんと考えてある』
『どういうこと?』
『まーまー、行ったらわかるわ。あんさんは時間どおりに行って、合図があるまで待っててくれたらええから』
不安120%のベルの言葉。結局教えてくれなかったから、こうして当日を迎えてしまっている。
これで地下街に人がぜんぜんいなかったらどうしよう。私、帰ってもいいのかな……。
なんて考えなら、地下への階段を下りきると、
「楽しみ~」「まだかなあー」
「ヤバ、私カメラの準備しとこ」
「音鳴らないよう気をつけとけよ」
ざわざわ。ざわざわざわ。
そこには、およそシャッター街とは思えないほどの人でにぎわっていた。
「え、うそ……」
いつの間に町の人気スポットに復活したの? いくら私がインドア派の陰キャだからって、ここまで人でごった返すようになってたらさすがに気づくと思うけどなあ。
でも、並んでいるお店のほとんどは前に見たのと同じシャッター状態。なにか変わったようには見えない。
いったいどうして、そう思いながら周りをキョロキョロしていると、人だかりの向こうにポッカリと空白のスペースがあった。
そこに置かれていたのは――大きなテレビカメラ。
「……そういえば」
クラスの陽キャたちが話していたような気がする。最近このあたりでドラマの撮影をやるって。主演がイケメン俳優の、たしか……
ってことは、ドラマの撮影があるから
まあ理由はなんにせよ、人がたくさんいるなら
あとは、合図(多分、怪人が出てくるからそれだろう)があるまで待っていればいいだけ。
「ふう」
撮影が始まるのを今か今かと待ちわびている人たちから少し離れて、大きな柱に隠れる形で背中を預ける。
人が多いのはあんまり得意じゃない。ウェイウェイするのが好きな人はそうでもないんだろうけど。私はムリ。
それに、これだけ人がいると誰に見つかるとも限らない。万に一つも私が変な組織の一員だとかバレたりしないためにも、こうやってひっそりとしていた方がいい――
「あれ、ちーちゃん?」
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