第74話 スタンバイモード
「なあ、ええ加減機嫌なおしてえな」
「別に、怒ってないわよ」
「いやいや、その顔は怒ってる顔やん」
「……そう思うなら、なんで私が怒ってるか、わかってるのよね?」
私は横を向いて、黒猫に問いかけた。
「そら、いきなり呼び出したからやろ?」
「そうじゃなくて。いやそれもないことはないけど」
ベルからの連絡が急なことは、もうあきらめた。というか、いきなり呼び出している自覚あったのか。まあ、連絡が当日じゃなくて前日になったのは進歩した、ということにしておこう。
「私が訊きたいのは、どうして私だけ呼び出されてるのかってこと。しかもこんな場所に」
そう、私とベルの
「今日用があるのはあんさんだけやったからな。せやから、ここの方がええと思ったんや。あんさんの家、近いやろ?」
「それならそうと最初に言っておいてよ……」
てっきりミカさんも来るんだと思ったから、交換用のグッズをいっぱい持ってきたのに。学校から帰ってきて大急ぎで準備したのがムダになっちゃった。これじゃあただ重たいカバンを背負ってきただけじゃん。
「それで? いったいなんなの?」
私のウキウキを返せという気持ちを込めて訊く。だけどベルは気づいているのかいないのか、意に介する様子もなくて、
「あんさんを呼んだ理由はひとつ。パワーアップや」
「パワーアップ?」
「ああ。この間の戦い、たしかにあんさんは大活躍やった。せやけど、それもいつ通用せんようになるかわからんからな」
たしかにプリピュアでも、敵側はいつだって魔法少女に勝とうと新技や新戦力を投入してきたけど……
「でもパワーアップかあ。もしかして、特訓とかするの?」
何度も練習したり、トレーニングしたり。やだなあ。運動はニガテだ。
「特訓? そんなめんどくさいことはせえへん」
ほっ。よかった。
「そんなことせんでも、あんさんにはすでにじゅうぶん力が備わってるで」
「え?」
どういうこと?
「前にも言うたやろ? オレが残ってる力を振りしぼってあんさんと契約したって」
「うん。たしかに言ってたけど」
「つまり、あんさんにはすでにいろんな力を持ってるっちゅーわけや」
「おお……」
なんてご都合主義的な展開。まあ、魔法少女と悪の組織の戦いなんてご都合主義の塊みたいなものだけど。
「いきなり全部の力を解放したらあんさんの身体が耐えられへんからな。時期を見計らってたんや。せやけど、今なら大丈夫や」
この間の戦いを見てオレは確信したんや、とベルは言う。
とにもかくにも、私は新しい力を使えるようになるらしい。
「で、どんなことができるようになるの?」
プリピュアで見たことある展開だと新技とか、フォルムチェンジ……そうだ、それがいい。今のビキニ+マントっていうえっちすぎる格好は1日でも早くなんとかしたい。
あ、でも飛行能力ってのも捨てがたいかも。そうだったらホワイトリリーと一緒に空を飛んで、それからプリピュアみたいに空中戦を……
「それはなあ――まあええわ、聞くよりもやってもろた方が手っ取り早いやろ」
ベルはぶつぶつ言うと、続けて、
「こっち向いてくれるか」
「え?」
「よっと」
ぽむ。
おでこにやわらかい感触。この感触、忘れるはずもない。
強制変身の合図。
「ちょ、ベル!」
こんな人がいるところで変身なんて!
「まあ慌てんと。自分の姿、よう見てみ」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! すぐに変身を解かないと――あれ?」
目線を下げて自分の身体を見る。だけど、そこにあるのは変身後のマントじゃなくて、ここに来たときと同じ
「変身……してない?」
たしかにベルは
でも考えてみれば、変身の光も出てなかった。もしかして変身失敗?
「これが『スタンバイモード』ってやつや」
「スタンバイモード?」
せや、とベルは得意げに、
「今のあんさんは、いわば半分変身してる状態や。その証拠に、服の下を確認してみい」
言われて、おそるおそるシャツのえりを伸ばして、おしりのあたりを触ってみる。
「……」
そこには、たしかにあった。いまいましき、黒のビキニ。言うなれば「プールの授業あるから下に水着、着てきちゃった☆」状態。そんなの、小学生以来だ。うう、ぴっちり感がむずむずする。
代わりに、着けていたはずのブラとパンツはどこかにいっていた。これ、スタンバイモード解除したら戻るんだよね?
「これでいきなり戦闘になったときでもすぐさま対応できるっちゅーわけや」
どや? とベルはヒゲをひくつかせながら訊いてくる。だけど……
「なんか……地味だね」
いやまあ新しいことができるようになったことには変わりはないんだけど。便利なのかもしれないけど。
「まさか、これだけ?」
これだけでホワイトリリーに対抗できるとは思えない。というか、ぜんぜん戦いに使える気がしない。
「そんなわけないやろ」
「え?」
「こっからが本番や」
とベルは不敵に笑う。嫌な予感がする。それを直感したと同時、
「ほな、いってみよか」
ぷに、と再び私のおでこに肉球の感触。
「え、ちょっと――」
待って。そんな言葉をかき消すように。
私の身体から、光があふれ出した。
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